歯科受診が認知症女性を救った体験談!生活保護受給までつながった話
30代女性 これは私が歯科衛生士として勤務する歯科医院で起こった、歯科受診がきっかけで生活保護受給ができた高齢者のお話です。
登場する人物
■Aさん…80代女性(認知症あり) 患者として来院
■Bさん…50代の息子(軽度知的障害あり)患者として来院
■Cさん…歯科衛生士(40代女性) 私の上司
■Dさん…地域包括支援センター相談員(40代女性)
80代の母親と50代の息子の来院
ある日、私が勤める歯科医院に80代女性(Aさん)と50代息子(Bさん)が親子で来院しました。
息子のBさんの主訴は

母(Aさん)が最近食べ物を食べらない。入れ歯が合っていないのかもしれない。母はもう喋れもしないので 事情がよく分からない。
母親のAさんはげっそりと痩せ細り 髪はぼさぼさで、真夏にもかかわらず厚手の長袖を着てブーツをはいており、言動もままならない状態でした。
私がAさんの口の中を見ようにも、その言葉の意味がわからないような感じもあり、おそらく認知症であろうと推測をしました。
なんとか口の中を見てみましたが 確かに入れ歯が入っていましたものの全く手入れをしてないためお口の中がとても汚く、入れ歯もカビが生えた状態で装着されていました。
知的障害の息子は母親の認知症を理解できていない
その間に歯科衛生士Cさんが息子(Bさん)に普段の母親(Aさん)の様子を聞き取ってくれていました。

お母様はどこかに通院されているのですか?

夜にはわめくし、昼はふらふら外に出てしまうから 家の中から出していない。あまり世話はしていないから そういうことは分からない。
Bさんには軽度の知的障害があり、母親が認知症かもしれないという現状を理解できていないようでした。
Bさんは時々仕事に行っているようだったのですが、短期バイトのようなもので、しかも母親が昼に徘徊をしてしまうので 夜中に勤務することが多いようでした。
そのため息子が母親を連れて病院等に行くことはあまりなく、今回の歯科受診が初めてだということがわかりました。

なぜ今回歯科にかかろうとしたのですか?
…と掘り下げていくと、Bさんは

母が痩せ細ってきて このままでは死ぬと思ったから。食べさせないといけないと思った。

食べないのは入れ歯に問題があるという話ではないです。お母様はおそらく認知症だろうから 専門の病院に行かなければ解決にはならないですよ。痩せ方も異常なので、このままにしておいたら命の危険もあります。
このように強くBさんを説得しましたが、なかなか理解を得られませんでした。
その日はAさんの入れ歯をきれいにすることと調整をして帰っていただくことになりました。
その後、あの親子のことについて歯科医院で会議を行い、次の来院時にはなんとか病院受診をさせようということで話が決まりました。
お金がないから治療しないで終わりにしたい
2回目の受診の時、窓口に来たBさんから

今日はお金がないので 何もせずに治療を終わりにしたい。
…と申し出がありました。
こういう事態は予測しておらず まさかの出来事だったのですが、このまま2人を帰してしまったらAさんは死んでしまうかも!ということから、院長が

お金は目処がついたら支払ってくれればいい。分割でもいいから。
…と無理やり歯科治療を行いました。
治療といっても、汚れきったお口と入れ歯を清掃し、8月の暑い中なのに冬用のコートを着ている女性に水分を摂らせることくらいでしたが…。
地域包括支援センターに連絡して家庭訪問
その後この親子は 3回目の予約日に歯科医院を訪れることはありませんでした。
予約日の翌日の朝、歯科衛生士Cさんが

Aさんが心配なので家に行ってくる!この暑い中で本当に死んでしまっているかもしれない。院長にも許可をもらったから!
…と言い出し、急遽お昼に自宅訪問をすることになったのです。
Aさんの自宅訪問をする際に歯科衛生士だけでは心許なかった為、私とCさんは以前からお世話になっていた地域包括支援センター相談員のDさんにも同席をお願いしました。
元々、あの親子が来院した時から相談をしていたので快く同行してくれました。
Dさんの知り合いには病院関係者が多く、そこで受診さえ出来れば入院治療まで話を進められるだろうという目論見のもと、自宅訪問を行いました。
Dさんからは

もし入院できたら介護認定も受けやすくなるし、生活保護も受けられるかもしれない。
…というアドバイスもあり、そこまでやれたら安心だと計画をしていました。
あの親子の自宅に到着し、インターフォンを鳴らすとBさんが出てきて、

どうしたんですか?
…と驚いていましたが、2人がAさんの身を案じていることを強く訴えると、中に招き入れてくれました。
ゴミ屋敷から母親を救出して生活保護支給と施設入所へ
家の中はひどいゴミ屋敷でした。
物が散乱し、女性が粗相をしたままになっていましたし、食べ物はカビだらけでしたが 食べたあとがありました。
Aさんは布団で寝転んでいましたが、Dさんが

すぐに病院に連れて行きましょう。認知症の可能性が非常に高いです。
と親子2人をほぼ無理やり車に乗せ、病院まで連れて行ってくれました。
私とCさんはそのまま歯科医院に戻りましたが、夕方頃、Dさんからその後の報告がありました。
結果として、Aさん(母親)は重度の認知症で、体重も30キロしかなく、脱水や栄養失調で危険な状態だったため、そのまま入院。
Bさん(息子)は軽度の知的障害が疑われたものの、本人が受診を拒否したのでそのまま自宅に帰られたとのこと。
しばらくしてからあの親子の後日談が入ってきました。
経済的な面については、Aさんを単身世帯にして息子と別居させ、生活保護を受給することで解決したということで、現在Aさんは無事に退院して 老人施設に入居してします。
Bさんは母親が施設に入所したことで昼間仕事に行けるようになったため 金銭的に落ち着いたとのことでした。
歯科受診がきっかけで1人の命を救うことができてホッとしました。