40代のセルフネグレクト患者の孤立死を見つめた看護師の体験談
30代女性 これは若い患者が孤独な闘病生活を送り、孤立死に至ったときの話です。
看護師の私が勤務する病棟に運ばれたその患者は40代の男性でした。
この患者は独身で親族とも縁が薄く、40代の若さで生活保護受給しながら生活をしていた人でした。
不摂生な生活が仇となって大病に見舞われ、当院に救急搬送されたのが始まりでした。
迅速な処置で一命は取り留めましたが油断出来ない状況が続き、後に病状が安定しても内服薬の調整やリハビリ、退院後の生活を整える必要もあり、長期の入院を余儀なくされました。
入院中もお見舞いに来る人は皆無。入院中に必要な物品も揃えてくれる家人もおらず、常に孤独な状況で、時々やって来るのは役所の生活保護の担当者のみでした。
彼は1度は何とか退院したものの、また不摂生な生活に戻り、また搬送されて入院…を何度か繰り返しました。
救急搬送の回数を重ねるごとに体は蝕まれ、40代という若さにも関わらず いつ死を迎えもおかしくない状況。まさしくセルフネグレクト(ゆるやかな自殺・自傷行為)の典型例でした。
彼の最後の入院となったころには 自分の生活を立て直す気のない患者に対して、医療スタッフもさすがに呆れ果てた状況でした。
そんなある日、この患者の最期がやって来ました。トイレの中で孤独に息を引き取っていたところを発見されたのです。救命処置をするも効果がありませんでした。
結果的に看取り自体も孤独、亡くなってからも親族が来る事もなく、役所の担当者が遺体を迎えにきて本当のお別れとなりました。
彼の最初の入院の時は、私を含む医療スタッフ皆がこの患者に寄り添い、生活の是正を出来るよう 今後どう関わるべきかを真剣に考えました。
在宅での医療提供の整備や看護師の訪問など、その患者の生活に一足踏み込める状況を何とか作り、生活状況の把握や修正が出来ないか、かなり濃く関わった経緯がありました。
また親族とも疎遠とはいってもこの患者も人の子であり、両親は健在という情報を役所と共有していました。
役所の担当者に何とか身内に連絡をつけてもらえないか、病院に足を運んでもらう様にお願いしてもらえないかと働きかけてもらいました。
それを受けて役所の方は連絡を取ってくれましたが、ご両親は息子に全く興味を示さず、来院を拒む始末だったということです。
両親がダメなら友人でもと思って本人に確認するも、友人だと思っていた人からはお見舞いに来ることを拒否されました。
結果的にこの患者の退院後の生活を一部的に見ていたのは医療スタッフのみであり、それは継続的ではなくスポットでの関わりのため、最期まで良い方向には進むことはありませんでした。
私はこの事例を通して、生前は親族や周りにいる友人達、自分に関わる人達を大事にする事が何よりも大切であると心から思いました。
孤独な状態で病気と闘い、そのまま孤独に死を迎えるというのは本当に淋しく、なんとも言えない切ない状況です。
また自分自身の事も大事にしなければ、体は正直です。医療関係者の一人として、若さで全てをフォローできないことを皆様に分かっていただきたいです。
日々の生活と日々関わる人達を大事に、生きていく事が大切であるとお伝えしたいです。
セルフネグレクトの愚行権と生存権
認知力や判断力が低下していない人が、自分の意思でセルフ・ネグレクトをしている場合、放っておくべきかどうかという問題があります。
人は「健康に悪い」とわかっていても、それをあえて行う「自由」が認められています。それは「愚行権」という権利です。愚行権とは、たとえ他の人から愚かな行為だと評価・判断されても、個人の領域に関する限り、邪魔されない自由のことです。生命や身体など、自己の所有に帰するものは、他者への危害を引き起こさない限り、たとえその決定の内容が理性的にみて愚行だとみなされようとも、対応能力を持つ成人の自己決定に委ねられるべきである、とするものです。
つまり他の人から見て正しいからといって、何かを強制することは正当でない、という考え方です。たばこを吸うこと、酒を飲むことを他人が「百害あって一利ないのだからやめなさい」と言っても、それを止めることはできないのです。
その一方で日本国憲法にはこういう条項もあります。国民の権利及び義務として、第25条に「国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」という「生存権」が定められています。
つまり法律や制度では、個人の生き方を尊重しながら、一方で、国は国民の健康を守ることが責務であるとしているのです。これらを踏まえると、セルフ・ネグレクトは個人の自由意志に基づくものだから、放っておいてよいということにはならないと、私は考えています。
引用元:ルポゴミ屋敷に棲む人々~孤立死を呼ぶ「セルフ・ネグレクト」の実態