生活福祉資金貸付と自立支援医療でセルフネグレクトが社会復帰した話
これは精神疾患で貯蓄が底をつきかけた人が福祉支援を得て再就職した話です。
登場する人物
Aさん:40代男性、精神疾患患者
Bさん:40代男性、Aさんの元同僚
Cさん:40代男性、精神保健福祉士
Dさん:50代男性、社会福祉士
Eさん:50代男性、会社経営者
私:30代男性、相談窓口担当(社会福祉士)
適応障害から休職・自然解雇を経てセルフネグレクト状態に
Aさん(40代男性)は元々は工場勤務で技術者として働いていました。専門的な資格と技術も持って活躍していたのですが、上司との関係が原因でうつ状態になり、精神科を受診して「適応障害」と診断されて休職に至りました。
しかし休職しても状態は良くならず、工場の就業規則における休職期間も満了して自然解雇となりました。
その後に傷病手当金や雇用保険などといった手続きをすることもできず、通院もできなくなり、昼夜逆転、かつ食べて寝るだけのような生活が続き、セルフネグレクト状態に。その結果、貯金が底をつきかけて翌月の家賃を払うことも困難になってしまいました。
Aさんを案じた元同僚のBさん(40代男性)がその事情を知り、医療を受けることやお金のこと、仕事のことなどを色々相談に乗ってもらおうということで、私(社会福祉士)がいる相談窓口にやってきました。
精神医療にかかわっていることから精神保健福祉士のCさん(40代男性)に、さらに貸付制度などの利用といったお金にかかわることも含まれることから社会福祉士のDさん(50代男性)にも話に入ってもらうことになりました。
Aさんは傷病手当金や雇用保険(失業保険)のこと自体は理解はしていて「手続きをしなければ!」とは思っていたものの 症状がつらくて行動することができなかったということでした。

親は高齢で実家が遠方にあるので相談もできず。自発的に友人に悩みを話すことすらできなかったんです。Bさんが声をかけてくれなかったら自殺していたかもしれません。
Aさんはうつ状態はあるものの、色んな制度があるということはなんとなく知ってはいたため
■目先のお金を何とかすること
■精神医療を再び受けることと、負担を減らすこと
■再就職。次の仕事をどうするかを考えること
…の3点を柱として支援をスタートさせました。
生活福祉資金の貸付制度の利用
まず「目先のお金を何とかすること」として、社会福祉士のDさんは生活福祉資金の貸付制度を利用することを提案しました。
Aさんは生活福祉資金の制度のことは知らなかったので、手続きをするために後日にDさんとともに社会福祉協議会へ行くことになりました。
精神医療で自立支援医療の利用
続いて「精神医療を再び受けることと、負担を減らすこと」については、精神保健福祉士のCさんから見てもうつ状態が続いているとみられ、社会復帰できるレベルまで治療を継続する必要性があることを伝えました。
さらに、自立支援医療(精神医療)を利用することによって、精神医療については1割負担になることを情報提供しました。
後日、元々通っていた精神科への通院を再開し、自立支援医療に必要な診断書なども用意して市役所で手続きをし、自立支援医療受給者証を取得することができました。
障害者雇用で再就職して社会復帰へ
再就職については、Aさん自身が「お金も大変なことになっているので早く働きたい。だが病気のこともあるので働くことが不安だ」と訴えていました。
そのことからDさんと私の知人で会社経営者でもあるEさん(障害者雇用なども積極的に行っている)に相談したところ、

Aさんは専門的な経歴も資格もあるから戦力になる。無理なく働けるように配慮できますよ。
…と言ってもらうことができたのですが、Aさんの主治医からは

すぐの就職はもっと状態が良くならないとしんどいと思う。まずは短時間や隔日勤務などから始めてはどうか。
…といった旨の意見書がありました。それでもEさんは

主治医の言う通りでいい。歓迎しますよ。
…と快諾してくださり、AさんはEさんの会社に非正規雇用ながらも再就職を果たし、生活福祉資金も返済できるようになりました。
後日談では、AさんはEさんの会社でフルタイム勤務になり、元気に働いているということでした。
生活福祉資金貸付制度とは?
【related posts】失業して生活にお困りの方など、一時的に生活資金などが必要な方を支援するための「生活福祉資金貸付制度」があります。
生活福祉資金貸付制度は、低所得者、高齢者、障害者などが、安定した生活を送れるよう、都道府県の社会福祉協議会が資金の貸付けと必要な相談や支援を行う制度です。貸付けの対象となるのは、次の方々です。■必要な資金を他から借りることが困難な「低所得者世帯」 ■障害者手帳などの交付を受けた人が属する「障害者世帯」 ■65歳以上の高齢者が属する「高齢者世帯」
失業や減収などによる生活困窮が広がっている中、生活に困窮した方に対し、生活を立て直せるよう支援することが求められています。そこで、低所得者などに対するセーフティネット施策の一つである生活福祉資金貸付制度について、利用者にとって分かりやすく、資金ニーズに応じた柔軟な貸付けを行うことができるよう、平成21年10月から、資金の種類を4つに整理・統合するとともに、貸付利子を引き下げるなどの改正が行われました。
また、新たな資金種類として、生活に困窮している人に対して、就労支援や家計指導などの継続的な相談支援と併せて、生活費や一時的な資金の貸付けを行う「総合支援資金」が設けられました。さらに、平成27年4月より、生活に困窮している人を支援する生活困窮者自立支援制度が始まりました。総合支援資金を利用する方に対しては、生活困窮者自立支援制度による支援もあわせて行うことで、生活の立て直しを包括的にサポートします。
引用元:政府広報オンライン
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