形見分けは勝手にやってOK?相続に影響は?形見分けトラブル体験談
形見分けは古くからある慣習のひとつです。
四十九日の法要などで親族が集まった時に、故人を忍び思い出を語りながら身内や交友関係者間で遺品を分けるということはごく普通に行われていますが、形見分けのトラブルも 実は枚挙にいとまがありません。
巷ではどんなトラブルが起こっているのか、ここでいくつかの例を見てみましょう。
高価な茶道の道具の形見分けでもめた体験談【40代男性】
これは私の祖母の兄弟(姉)の形見分けで起きた出来事です。
私の祖母の姉(私から見ると大おば)は若い頃より茶道の先生をしていました。
全国にお弟子さんがたくさんいて、よくわかりませんが最終的には茶道の先生の大先生だったということです。
そんな大おばさんが2015年10月に亡くなりました。
彼女は結婚はしていたのですが旦那さんが早くに亡くなり、子供もおらず、最終的には兄弟で相続と形見分けをすることになりました。
大おばさんはかなり高級な茶道の茶碗などを保有していたらしく、いろいろなお弟子さんから形見分けをしてほしいとお願いがありました。
うちの家系では茶道を行う人が大おばさんだけで、他の親戚一同は全く茶道の道具について詳しくありませんでしたから、お弟子さんから形見分けをしてほしいと言われたときに 何も考えずにどんどん分けてあげていました。
しかし実はその中に特に高級な茶碗があったらしく、その茶碗を巡って形見分けをしたお弟子さん同士が大もめにもめる騒ぎとなりました。
お弟子さんたちは相続人ではないわけで、まったく相続の権利もないのですが、

なんであの人にこの茶碗を渡したのか?勝手に渡されては困ります!
・・・などの苦情がさんざん我が家に押し寄せて来て大変苦労しました。
うちの父の知人に遺産相続などに詳しい弁護士の友人がいたので、その方にこの一件を相談しました。
そして親戚一同と渦中のお弟子さん数名に一同に集まってもらい、その弁護士の方に仲裁をお願いし、解決に導いていただきました。
最終的には すでに渡してしまった茶碗に関しては「その人がそのままもらってよい」という事になり、残っていた茶碗や茶釜などは誰も使う人がいないため現金化して 親戚一同で同額に分割することになりました。
大おばさんは病院などで亡くなったのではなく、自宅で急に倒れて亡くなっているところを発見され、茶碗などの遺品を誰にどう形見分けするなどの遺言を全く残していなかったことからの形見分けの騒動でした。
金品以外の品物でも 高価なものに関しては遺言に入れておくのが良いという教訓になりました。
残り物の着物を押し付け合う風変わりな形見分けに辟易した体験談【40代女性】
これは2015年9月の、父方の祖母の形見分けでの出来事です。
訪問着から正絹まで その価値に開きがあったものの、祖母は着物を多数所有していました。
形見分けの際に価値のあるものからもらわれていくかと思いきや、逆に高級な正絹は要らない。訪問着なら欲しい!との希望をその場にいた親族の皆さんが出されていました。
正絹は値段は高そうに見えてもなんだか古臭いデザインなので着ていくところがないので欲しがる人がいません。
挙句の果てに形見を「残りものの着物をお互いに押し付け合う」ような形になってきて、ついに親族同士のもめ合いに発展しました。
私自身も訪問着なら欲しかったので、正絹は拒否。そうなると今度は人数分の枚数が足りず、もらえない人が出たため「不公平だ!」と言い出される始末。
さらにその形見分けにかかわっていないそれぞれのご主人が 着物の価値の金額換算を始めて余計な口出しをしてきたため、事態はさらに悪化して更に押し付け合いと揉め合いが止まりません。
私も人のことは言えないのですが、

着物ひとつでこんなに揉めるものなの!?
・・・とあきれ果ててしまいました。
そこには「故人が残したものは、よほど些細なものでない限り簡単に処分してはいけない!」と考えている者たちが集まっていました。
確かに私自身も捨てるのは心苦しいと思う部分もありましたが、あーだこーだと続いた押し付け合いは1時間も経っても収拾がつきません。
このままではらちが明かないので 最後に私からこう提案しました。

そこまで皆さんが要らないというのであれば、全部処分すればすっきりするんじゃないですか?
一同が処分という言葉にドキッとしたのか、

何もそこまでは・・・ねぇ?
…という雰囲気になりましたが、最終的に残された高級着物は処分することになりました。
とはいえゴミに出すのはさずがに忍びないので、どこか寄付できるところはないかと探していると、ネットで引取り団体を発見しました。
遺品の着物買取業者に売って現金化するという手もありましたが、お金になると更にもめる可能性が高い人たちなので やはりここは寄付がいちばんよいと思い、即寄付して 形見分けが終了しました。
終活準備万全だった伯父が遺した唯一の汚点が形見分けで発覚【40代男性】
これは2016年5月に、母方の伯父の形見分けでの出来事です。
亡くなった伯父は独身で子供もいなかったので 私を含めた甥や姪が遺産の相続人となりました。
伯父自身が終活を色々とやっていたらしく、財産的な遺産の分配は特に問題なく終わったのですが、伯父が大切にしていた漫画本セットの所有権を巡って、自分の兄と従兄の間でトラブルとなりました。
両者から話を聞いたところ、どうも伯父がお互いに対して「自分が死んだときにはこれを持って行ってくれ」…などと伝えていたらしく、双方それなりに思い入れがある品のようでした。
遺産分配の手続きなどで何度か顔を合わせた際にも この2人は裏でやりあっていたらしいのですが、今更引くに引けなくなったのか、顔を合わせるたびに微妙な空気になっていました。
この漫画本のセットの金銭的な価値はせいぜい1万円程度だそうです。
幸いにも金銭的な価値はほとんどない本だったこと。せっかくそれまではお互いに不和もなく過ごしていたものを この程度のことで揉めるようなことがあっては伯父に申し訳ないということで、この漫画本セットはひとまず別の誰かが預かる形で所有し、解決した際に引き渡しを行うということで お互いを納得させました。
それを管理する人間についてもやや揉めたのですが、遺産分配の責任者の一人でもあり、騒動の当事者でもある従兄の姉が

これ以上騒動を起こすのであれば、この漫画本は廃棄する!
…と強い口調で言い出したため この場はひとまず沈静化しました。
そして最終的には もう一人の遺産相続の中心でもある私が この漫画本を預かることとなりました。
双方でしっかり話し合い、決着がついたら引き渡すことになっているのですが、5年経過した現在もまだ解決していません。
形見というのは些細なものであっても 大した資産価値がなくても、関わった当事者の思い入れが強ければ強いほど このような禍根を残すものなのだと、あらためて思い知りました。
形見分けは勝手にやったらヤバいこともある!
「形見分け」を故人の思い出や思い入れのある品を誰かに渡す(託す)といった意味で考えた場合、なんとなく相続や法律には無関係な気がしますが、決してそんなことはありません。
高価な形見分けには贈与税がかかる
故人の所有物はすべて形見ですが、中には高価なものや資産価値が高いものもありますし、価値の高いものはそう簡単に人に譲ることはできません。
基本的に時価が110万円以上の贈与には贈与税がかかります。
故人の遺品は法定相続人全員の共有財産
それほど高価なものを相続手続が完了する前に特定の誰かに譲ることは、法定相続人が黙っていない、クレームがくるということもあります。
資産価値が高ければ高いほど、それは法定相続人全員の共有財産とみなされますから、共有財産を一個人が勝手に処分したり譲渡したりはできません。
遺産分割協議を行って、財産の帰属について法定相続人全員の同意を得た上で 遺産分割協議書を作成する必要があります。
よって故人の所有物を勝手にもらったり人にあげたりするのはNGで、相続が発生したらまずは全ての相続財産に関する「相続財産リスト」を作り、遺産分割協議を経て 相続の手続きを進めていくことになります。
形見分けしたいと思っているものがそれほど高価でないのなら、形見分けの希望をエンディングノートや遺言書に残して、自分が大切にしてきた思い出の品を親しい人にもらってもらうのは問題ないと思います。
