- 鳩の撃退法(佐藤正午)
- 星を掬う(町田その子)
- 図書館戦争(有川ひろ)
- 天地明察(冲方丁)
- 余命10年(小坂流加)
- 日日是好日「お茶」が教えてくれた15のしあわせ(森下典子)
- 活版印刷三日月堂 星たちの栞(ほしおさなえ)
- へそまがり昔ばなし(ロアルド ダール)
- 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は(福徳秀介)
- 眩 (くらら) 朝井まかて
- 一瞬の風になれ(佐藤多佳子)
- 精霊の守り人(上橋菜穂子)
- 中野のお父さんの快刀乱麻(北村薫)
- スティル・ライフ (池澤夏樹)
- 薬指の標本(小川洋子)
- 起終点駅 ターミナル(桜木 紫乃)
- 獣の奏者 1闘蛇編(上橋菜穂子)
- 江ノ島西浦写真館(三上延)
- 海賊とよばれた男(百田 尚樹)
- 海が見える家 (はらだみずき)
- コンジュジ(木崎みつ子)
- 秋の四重奏 (バーバラ・ピム)
- 待賢門院璋子(たいけんもんいんしょうし)の生涯 椒庭秘抄 (角田文衛)
- 同姓同名(下村敦史)
- 平場の月(朝倉かすみ)
- 風の盆恋歌(高橋 治)
- 52ヘルツのクジラたち(町田そのこ)
- ミッテランの帽子(アントワーヌ・ローラン)
- 大人は泣かないと思っていた(寺地はるな)
- 高丘親王航海記(澁澤龍彦)
- クリスマスキャロル(チャールズ・ディッケンズ)
- 氷点(三浦綾子)
- 四季・奈津子(五木寛之)
- スーツケースの半分は(近藤史恵)
- 渇水(河林満)
- 今日の人生(益田ミリ)
- 地獄の田舎暮らし(柴田剛)
- にほんのお福分け歳時記(広田千悦子)
- おやさい妖精とまなぶ野菜知識図鑑 (ぽん吉)
- 幸せなひとりぼっち(フレドリック・バックマン)
- 20歳のソウル(中井由梨子)
- 東京すみっこごはん(成田名瑠子)
- 恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。(林 伸次)
- 風の万里 黎明の空(小野不由美)
- ゾウの時間ネズミの時間 サイズの生物学 (本川達雄)
- 胎児のはなし(増﨑英明/最相葉月)
- 羊と鋼の森(宮下奈都)
- 静かな雨(宮下奈津)
- 食堂かたつむり(小川糸)
- ライオンのおやつ(小川糸)
- 夜は短し歩けよ乙女(森見登美彦)
- 有頂天家族(森見登美彦)
- 傲慢と善良(辻村深月)
- 朝が来る(辻村深月)
- ツナグ(辻村深月)
- アムリタ 上・下(吉本ばなな)
- チョコレートコスモス(恩田陸)
- ネバーランド(恩田陸)
- 植物図鑑(有川浩)
- 服を買うなら捨てなさい(地曳いく子)
- コンビニ人間(村田沙耶香)
- おもかげ(浅田次郎)
- ドキュメント(湊かなえ)
- ののはな通信(三浦しをん)
- 森に眠る魚(角田光代)
- 八日目の蝉(角田光代)
- 小さき者へ(重松清)
- 祈りのカルテ(知念実希人)
- 百花(川村元気)
- そして、バトンは渡された(瀬尾まいこ)
- 沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う(山舩晃太郎)
- 蜜蜂と遠雷(恩田陸)
- よこまち余話(木内昇)
- 今夜誰のとなりで眠る(唯川恵)
- 僕の人生には事件が起きない(岩井勇気)
- 失はれる物語(乙一)
- 路上のX(桐野夏生)
- 天国はまだ遠く(瀬尾まいこ)
- 二つの祖国(山崎豊子)
- オルタネート(加藤シゲアキ)
鳩の撃退法(佐藤正午)
小説名人による名作中の名作ついに文庫化!夢枕獏さん、京極夏彦さん、奥泉光さん、筒井康隆さんら選考委員から圧倒的な評価を受けた、第6回山田風太郎賞受賞作!山田風太郎賞の受賞からおよそ2年後、著者は『月の満ち欠け』で第157回直木賞を受賞したが、関係者のあいだでは本作が直木賞でも―といった声も出ていたという。連載に3年を要した本作は、著者本人も「墓碑銘にしたい」「思い残すことはないくらい、本当に集中して書いた」と語る、まさに渾身の作品です。
20代男性 自分が体験した事件をそのまま小説にまとめた主人公が 小説を書き進めながら現実でのその事件も次々に進展していく臨場感が良かったです。数々の個性豊かな登場人物。筆者が手にした三千万円の偽札。その行方を追う警察やヤクザの組長。ただのバーテンダーだと思っていた主人公と偶然出会った男性。
数々の登場人物のことが物語が進むにつれてだんだんと具体化し、少しづつ見えていく面白さ、そして最後は誰も思いもしないような展開に進展していく意外性。この物語にはそのような多くの多様性があります。読み始めたら最後までもう止まることができないようなそんな物語です。私は夢中になりすぎて、ぶっ通しで読み切ってしまうほどでした。おすすめです。
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星を掬う(町田その子)
町田そのこ 2021年本屋大賞受賞後第1作目は、すれ違う母と娘の物語。小学1年の時の夏休み、母と二人で旅をした。その後、私は、母に捨てられた。ラジオ番組の賞金ほしさに、ある夏の思い出を投稿した千鶴。それを聞いて連絡してきたのは、自分を捨てた母の「娘」だと名乗る恵真だった。この後、母・聖子と再会し同居することになった千鶴だが、記憶と全く違う母の姿を見ることになって――。
30代男性 非常に面白く世界観が良く没入感が入る小説です。母と娘という関係の難しさや、DV夫、若年性認知症など、個人のキャラクターがしっかりと明確に描かれています。日常にある闇と人との関わりに若干怖い部分もありますがそれも面白い部分です。
内容に引き込まれて一気読みしました。全て読み終わると私も母との過去に囚われている1人だと改めて思います。自分の人生を生きていく力をもらえる作品だと思いました作者に感謝したい作品です。
図書館戦争(有川ひろ)
2019年。公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まる『メディア良化法』の成立から30年。日本はメディア良化委員会と図書隊が抗争を繰り広げていた。笠原郁は、図書特殊部隊に配属されるが…。
30代女性 現実ではかけ離れた物語のようで、実は現実にも起こり得てしまうかもしれない、図書の検閲をテーマにした物語。検閲に立ち向かう女性と彼女の恋にどっぷりつかってしまい、読み進めるほどに守り守られる優しさが心に沁みます。主人公と教官との恋にきゅんきゅんしっぱなしです。
タイトルからは想像できない、甘い恋の物語に浸りたい人にもおすすめしたい一冊。二人を取り巻くキャラクターも色濃く個性溢れるメンバーたちで、一度読んだら完読するまで頭から離れません。榮倉奈々さんと岡田准一さん主演で過去に実写映画化されています。私はこの作品がきっかけで有川浩作品の大ファンになりました。別冊も含めて全部で6巻あります。
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天地明察(冲方丁)
徳川四代将軍家綱の治世、ある「プロジェクト」が立ちあがる。即ち、日本独自の暦を作り上げること。当時使われていた暦・宣明暦は正確さを失い、ずれが生じ始めていた。改暦の実行者として選ばれたのは渋川春海。碁打ちの名門に生まれた春海は己の境遇に飽き、算術に生き甲斐を見出していた。彼と「天」との壮絶な勝負が今、幕開く―。日本文化を変えた大計画をみずみずしくも重厚に描いた傑作時代小説。第7回本屋大賞受賞作。
30代女性 胸が熱くなります。主人公の算哲の純粋さ、ひたむきさ、算哲を支える周りの人の熱い想い。特に、保科正之と算哲が碁を打つシーンや、算哲が誤問を出してしまった時の切腹しかねない悲しみ、関が算哲に怒りをぶつけるシーン。歴史物はどんな身分であろうと、日本のために尽くすんだという気概があるから好きです。私は天文のことも数学のこともよく分かりませんが、それでも楽しめる内容でした。
算哲とえんの関係性。2人がそれぞれの歩みを進める中で、自然の流れで一緒になるというところがすごく素敵で、2人はいつ出会ってもどこかで交わる運命なんだと思いました。何度も挫けて、それでも期待されて立ち上がって、また挫けて。読み終わった後は胸がジーンと熱くなりました。
余命10年(小坂流加)
第6回静岡書店大賞 映像化したい文庫部門 大賞受賞作。20歳の茉莉は、数万人に一人という不治の病にかかり、余命が10年であることを知る。笑顔でいなければ周りが追いつめられる。何かをはじめても志半ばで諦めなくてはならない。未来に対する諦めから死への恐怖は薄れ、淡々とした日々を過ごしていく。そして、何となくはじめた趣味に情熱を注ぎ、恋はしないと心に決める茉莉だったが…。涙よりせつないラブストーリー。
20代女性 病気で余命10年であると宣告された20歳の主人公が残された時間をどのように使うかを考え、懸命に生きるお話です。友人や同世代の人たちが当たり前に仕事に勤しんだり、結婚、出産を経験したりと環境は変化していくのに 自分は何も経験できないと苦しむ描写はとても心に残っています。 また、余命を宣告されたからこそ、家族や友人にどう感謝と別れを告げるのかは読みどころの1つだと感じました。
この作品は先日、小松菜奈さん主演で映画化されました(2022年3月公開)予告をみた限りでは、原作の小説とは多少内容が変わっているのではないかと感じました。そのため、小説・映画の両方楽しめる作品だと思っています。
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日日是好日「お茶」が教えてくれた15のしあわせ(森下典子)
「人生のバイブル! 」多くの読者を救ったベストセラー・エッセイ。毎日がよい日。雨の日は、雨を聴くこと。五感で季節を味わう歓び。今、この時を生きていることの感動を鮮やかに綴る。
お茶を習い始めて二十五年。就職につまずき、いつも不安で自分の居場所を探し続けた日々。失恋、父の死という悲しみのなかで、気がつけば、そばに「お茶」があった。がんじがらめの決まりごとの向こうに、やがて見えてきた自由。「ここにいるだけでよい」という心の安息。雨が匂う、雨の一粒一粒が聴こえる…季節を五感で味わう歓びとともに、「いま、生きている!」その感動を鮮やかに綴る。来場者数100万人突破! 大ヒット映画『日日是好日』原作
引用元:amazon
50代女性 ルポライターでありエッセイストでもある著者の、大学生の頃からの25年間にわたるお茶のお稽古のことが綴られた一冊です。
彼女の人生のさまざまなエピソードを絡めて語られるお稽古事。スピード感や効率が重視される現代で、長年継続することで体得というのでしょうか、時や季節の巡りを何年も重ねてゆく中で、身体と心が理解してゆく。日本独自の茶道の世界を、高尚な立場からではなく、私たちにとても親しみやすい方向から語ってくれています。
この本を読了すると、私のような不調法な者でも、思わず自分も一服のお抹茶や可愛らしい季節の和菓子がいただきたくなり、清らかに整えられたお寺や日本庭園のお茶席を訪れたくなるようです。
炉におこされた炭の香り、釜に煮え立つお湯の沸く音、亭主によって選ばれた掛け軸とひっそりと地味に咲く茶花の床飾り、季節ごとに違うお茶道具。季節に合わせてしつらえられた空間の中でお茶を飲むというその行為の中に、生きることの実感のようなものが凝縮されている。そのような文化が脈脈と受け継がれて来ているこの国の美しさのようなところにまで思いを馳せることもできます。
15の章のうちの『頭で考えようとしないこと』『今、ここにいること』『雨の日は、雨を聴くこと』などは禅の言葉にも通じそうで、静かな心に広がるしあわせの世界を思わせます。
2018年には、大森立嗣監督により、黒木華さん、樹木希林さんの出演で映画にもなっています。
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活版印刷三日月堂 星たちの栞(ほしおさなえ)
川越の街の片隅に佇む印刷所・三日月堂。店主が亡くなり、長らく空き家になっていた三日月堂だが、店主の孫娘・弓子が川越に帰ってきたことで営業を再開する。三日月堂が営むのは昔ながらの活版印刷。活字を拾い、依頼に応じて一枚一枚手作業で言葉を印刷する。そんな三日月堂には色んな悩みを抱えたお客が訪れ、活字と言葉の温かみによって心が解きほぐされていくのだが、弓子もどうやら事情を抱えているようで…。
感想の声【20代男性・編集局】原稿を読んで、行方知れずの友人に電話をかけた。電話は通じなかった。あの時伝えておけばよかった言葉…そんなことを思い出して、気づいたらぼろぼろ泣いていた。まだ間に合う人たちがいるなら、ぜひ読んで欲しい。そして伝えて欲しい。そう思った。
引用元:amazon
30代女性 活版印刷所を舞台となっている物語なのですが、活版印刷のことを知らない人でもその文字や雰囲気が伝わってくるような内容になっています。活版印刷についてとても細かい描写や説明があるので分かりやすいですし、活版印刷を見てみたくなってしまいます。
終始落ち着いた雰囲気がストーリーの中に流れているので、読んでいて心が落ち着きます。また活版印刷所があるのは川越で、古き良き川越の様子も文書からひしひしと伝わってきます。まるで川越の街並みを歩いているような気持ちになれて、癒されます。
主人公の弓子は祖父の代で閉じてしまった活版印刷所である三日月堂に引っ越し、人との出会いによって三日月堂を再開させていきます。出会いは人を変えていくということを感じさせてくれるストーリーが詰まっています。
落ち着いていて、芯が強く、出会った人々が思わず本音を話してしまうような弓子に 読んでいる方もどんどんと魅了されていきました。そして弓子のことを応援せずにはいられなくなりました。
弓子と出会う人たちも、様々な生き方をし、様々な悩みを抱えています。しかし、活版印刷の文字、その文字が紡ぐ言葉がその人たちの心を溶きほぐし、明るい未来へと導いてくれます。
普段あまり気にすることのなかった言葉の力についても改めて考えさせられますし、家族についてや自分の大切な人やものに対する向き合い方についても振り返ることができます。そして弓子や弓子と出会う人々と共に人生の新たな一歩を踏み出せる作品だと思います。
30代女性 現在は衰退しつつある活版印刷を通しての心温まる物語です。馴染みのない活版印刷とはどんなものなのか興味をそそられます。
また、活版印刷でつながっていく人間模様も心惹かれます。言葉のもつ大きな力を活字が倍増させて印刷所を訪れる人々を救っていきます。
親や子どもの目線だけでなく親族や友人、恋人の立場と様々な視点から楽しめるので幅広い方がそれぞれに感情移入し楽しめる作品です。感動に次ぐ感動で、涙なしでは読み進められませんでした。
4つの章で構成されていて 章ごとに主人公が入れ替わります。前に登場した人物が後の章でも度々登場するので思い返し成長ぶりも楽しめます。
各章の始まりのページにはその章を表す写真が掲載されていますが、その写真が醍醐味です。
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へそまがり昔ばなし(ロアルド ダール)
昔ばなしの主人公は、ふつう「いい子」に決まってるよね。だけどロアルド・ダールは「いい子」が好きじゃないらしい。赤ずきんちゃんはピストルをぶっぱなし、白雪姫は競馬であてて億万長者。シンデレラときたら…。ブラックユーモアいっぱい、ダールの傑作“昔ばなし”。
引用元:amazon
20代女性 いい子ちゃん嫌いのロアルド・ダールにかかれば、みんなが知っている定番の昔話もピリッとジョークが効いた物語に変身。韻を踏んだ文章が読んで楽しく、ナンセンスな展開に大笑いしました。
白雪姫は魔法の鏡で勝ち馬を予言してもらい、馬券を買い占めて大金持ちに。シンデレラは容赦なく意地悪な姉の首を切り落とした王子に嫌気が差して一般人と結婚…といった具合にブラックユーモアたっぷりの物語になっています。
中でも拳銃でオオカミを仕留めて毛皮のコートを手に入れて垢ぬけた赤ずきんちゃんは、自分がよく知っている子供向けにされたグリム童話版と大違い。
「知らない人についていっちゃだめよ」と読み聞かせの度に教訓を聞かされて赤ずきんが苦手だった私は、この本で見事に赤ずきん嫌いを克服しました。
今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は(福徳秀介)
大学2年生の「僕」は、入学前に憧れていた大学生活とはほど遠い、冴えない毎日を送っていた。日傘をさしていつも人目を避け、青春を謳歌している学生グループを妬ましく思う、そんな日々。友人は一人。銭湯掃除のバイトと孤独な大学生活だけの毎日。そんなある日、大教室で学生の輪を嫌うように席を立つ凜とした女子学生に出会う。その姿が心に焼き付いた「僕」は次第に深く強く彼女に惹かれていく。やっとの思いで近づき、初デートにも成功し、これからの楽しい日々を思い描いていたのだが・・・。ピュアで繊細な「僕」が初めて深く愛した彼女への想いは実るのか。そして、僕の人生の、その先は…。著者自身の私小説を思わせる恋愛小説ながら、「生きる」ことそのものについても考えさせられる、心に刺さるホロ苦恋愛小説です。
引用元:amazon
30代女性 題名からはどんなお話なのか全く想像ができません。人見知りで変わり者の大学生の日常的な話か…と思いきや 最後に全てが繋がるどんでん返し。
辛いことは重なるけれど、幸せな事も何倍にもなって返ってくる。読む度にどんどんその世界に引き込まれていって 早く続きが知りたくなります。
関西大学のキャンパスが舞台で、その場所に行った事がなくても不思議と想像できてしまいます。また登場人物も会った事がない人なのに 読んでると頭の中でイメージが膨らんできて、すんなり話の内容が入ってくるのです。
幸せを少しでも早く伝えたいからさちせ、好きをもっと時間をかけて伝えたいからこのき・・・と言う部分にとても惹かれました。
笑いあり涙ありで 読み終わった後に少し自分と向き合うことができる作品でした。
眩 (くらら) 朝井まかて
あたしは絵師だ。筆さえ握れば、どこでだって生きていける。北斎の娘・お栄は、偉大な父の背中を追い、絵の道を志す。好きでもない夫との別れ、病に倒れた父の看病、厄介な甥の尻拭い、そして兄弟子・善次郎へのままならぬ恋情。日々に翻弄され、己の才に歯がゆさを覚えながらも、彼女は自分だけの光と影を見出していく。「江戸のレンブラント」こと葛飾応為、絵に命を燃やした熱き生涯。
引用元:amazon
30代女性 眩(くらら)は、直木賞作家朝井まかてさんの時代小説です。主人公は、葛飾北斎の娘で、自身も浮世絵師であるお栄(葛飾応為)
彼女は、一度嫁ぐも離縁して、あとはずっと父北斎の絵の仕事を手伝いながら自らの絵の才能を磨いていきます。しかし、天才と呼ばれる父を見て育っているため、その絵の技術になかなか追いつけず、もどかしさを感じ悩みます。
また、かつて父の弟子だった絵師の男性との恋にも悩みます。その姿は、現代の働く若い女性も共感する部分が多いのではないでしょうか。
北斎は風景画、役者絵、草子の挿絵、春画など手掛けるジャンルは多種に及びますが、お栄はその絵の仕事の手伝いをしつつも(浮世絵師の仕事は基本分業制) 肉筆画(版画ではなく、一点ものの絵)の色彩表現を特に追及し続けます。世界を構成する様々な色に魅せられ、その色をどうにかして表現したいと絵に一心に向かう姿は読んでいて、応援したくなります。
やがて北斎亡き後、彼女はついに自分しか出来ない絵の表現にたどり着きます。それは、光と影の世界。(葛飾応為は、現代では日本の(江戸の)レンブラントとまでに評されています)
北斎という光を浴びながら、影のように父を支えつつ、自分の表現を模索し続けたお栄の人生の集大成です。最後のシーン、絵筆一本を手に目的地もなく歩き出す晩年のお栄の姿。その自由な雰囲気は、清々しくて、一人の女性としてこのような生き方をするのも良いなと憧れさえ感じます。
時代小説ですが、読みやすいですし、オススメです。
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一瞬の風になれ(佐藤多佳子)
春野台高校陸上部、1年、神谷新二。スポーツ・テストで感じたあの疾走感……ただ、走りたい。天才的なスプリンター、幼なじみの連と入ったこの部活。すげえ走りを俺にもいつか。デビュー戦はもうすぐだ。「おまえらが競うようになったら、ウチはすげえチームになるよ」。青春陸上小説、第1部、スタート! 2006年本の雑誌が選ぶノンジャンルベスト10 第1位。
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40代男性 学生時代の部活動に打ち込んでいた時の熱い気持ちを思い出させてくれた作品です。自分には縁のなかった陸上競技(部)の物語ですが、個人競技だけどチーム(部)として一体となって語られる物語はいい意味で個人競技とチーム競技の境界線をなくしてくれました。
主人公が高校生で1年生~3年生までの成長が描かれており、個人としての成長だけでなくチームが出来ていく過程での葛藤や喜び、成長がしっかりと描かれていました。青春時代に良くある恋愛模様も物語の展開を邪魔せず、むしろ活かす要素となっている所も好印象でした。
子供が主人公と同じ年代になり、同じ陸上部に所属していることもあって家族で読んでいます。漫画化されていてコミックも販売しているので、まだ文字だけの小説を読めない下の子も 漫画の方を何度も繰り返し読んでいます。
陸上をやっていない長女も「陸上」にあまり興味はないけどこの本は「ヤバい、面白い」「漫画も小説の空気を壊してないしスゴイ」と大絶賛し、友人や学校でも紹介していました。小説が世に出て10年以上経ちますが、今でも繰り返し読んでいます。
ラストもいい終わり方だと思いますが、「もっと続きを読みたい!」「この先の成長を見たかった」感が個人的に強いです。これから何度も読み返す本であることは間違いなしです。
精霊の守り人(上橋菜穂子)
わたしはね、骨の髄から、戦うことが好きなんだよ。精霊の卵を宿す皇子チャグムを託され、命をかけて皇子を守る女用心棒バルサの活躍を描く物語。著者は2014年国際アンデルセン賞作家賞受賞。老練な女用心棒バルサは、新ヨゴ皇国の二ノ妃から皇子チャグムを託される。精霊の卵を宿した息子を疎み、父帝が差し向けてくる刺客や、異界の魔物から幼いチャグムを守るため、バルサは身体を張って戦い続ける。建国神話の秘密、先住民の伝承など文化人類学者らしい緻密な世界構築が評判を呼び、数多くの受賞歴を誇るロングセラーがついに文庫化。痛快で新しい冒険シリーズが今始まる。
引用元:amazon
50代女性 中年女性のバルサが主人公で、自分の父親に命を狙われる第二王子チャグムの命を守る用心棒という設定が面白いと思いました。偶然の出会いで、二ノ妃より王子を託され、二人で逃げることになります。
本の中にはファンタジーの要素がふんだんに盛り込まれていますが、子供はもちろん、大人もとても楽しめる作品です。登場人物が多く覚えるのが大変かもしれませんが、みな個性的で面白く、この世界観が大好きです。
敵対していた者同士が最後には力を併せて王子を助け、世界の危機を救うという展開もとてもよかったです。話の展開が面白く、一気に読みたくなる本です。
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中野のお父さんの快刀乱麻(北村薫)
父と娘の“名探偵コンビ” 好評シリーズ。出版界で起きる「日常の謎」に挑むのは、体育会系文芸編集者の田川美希と、抜群の知的推理力を誇る高校教師の父親。実家の掘り炬燵で繰り広げられる父娘の会話から、大岡昇平、古今亭志ん生、小津安二郎、菊池寛ら各界のレジェンドをめぐる謎を解き明かす人気シリーズ第3弾。
引用元:amazon
40代男性 「日常の謎」もので知られるミステリー作家の北村薫さんが書く、文学・文芸界の「日常の謎」もの。シリーズ最新刊の3作目。いわゆる「安楽椅子探偵」の一種です。
例えば、こんな謎を解きます。作家大岡昇平の『武蔵野夫人』という長編小説のタイトルにまつわる謎で、当初は『武蔵野』という題名だったのが、『―夫人』と付けたのは誰で、なぜそうなったのか。
そんなことがどうやったらわかるのかと思われそうですが、作家自身のエッセイ、関係者の回想録、インタヴュー記事や対談など、巷間溢れている書籍、雑誌などを丹念に読み解いていくことで、おそらくこうであったろう、ということがわかってくる…というもの。
とても知的で高尚な遊びですが、それを北村薫さんはサラリと読ませて、唸らせます。名人芸です。
スティル・ライフ (池澤夏樹)
しなやかな感性と端正な成熟が生み出した唯一無二の世界。生きることにほんの少し惑うとき、何度でもひもときたい永遠の青春小説。芥川賞受賞作品。シングルファーザーと巣立ちゆく娘の物語「ヤー・チャイカ」伴録
引用元:amazon
30代男性 表題にあるスティル・ライフとは静物画といった意味合いですが、作者は「静かな生活」といった意味で捉えているようです。
主人公と佐々井とが織りなす淡々とした掛け合いは無機質な印象をうけるも、どこか互いに対する配慮にあふれていて、私の好きな距離感だなと思います。お互いのことを深堀りせず、話してきたらさらっと聞くところが素敵だな、と。
主人公の話し相手の佐々井がミステリアスです。その謎は終盤に解けるのですが、その暮らし方は今でいうところのミニマリスト。その部分も憧れる部分でした。
また、二人の理系な会話がかっこいい。文系の私としてはこんな会話をしてみたいと思う、それもバーで。「チェレンコフ光」「空から降ってくる微粒子」初めて聞いた言葉だけれど、ほの暗いなかに微かに光るさまがイメージできる。なにかわからないけれど、なんとなくイメージができる言葉を使うところに、作者の高い言葉選びのセンスを感じました。
日常はあまりに騒々しい。息つく間もないほどに。この小説は日常に静かな時間の流れを作り、読むひとの心を静めてくれます。
薬指の標本(小川洋子)
楽譜に書かれた音、愛鳥の骨、火傷の傷跡…。人々が思い出の品々を持ち込む〔標本室〕で働いているわたしは、ある日標本技術士に素敵な靴をプレゼントされた。「毎日その靴をはいてほしい。とにかくずっとだ。いいね」靴はあまりにも足にぴったりで、そしてわたしは…。奇妙な、そしてあまりにもひそやかな、ふたりの愛。恋愛の痛みと恍惚を透明感漂う文章で描いた珠玉の二篇。表題作ほか「六角形の小部屋」収録。
引用元:amazon
30代女性 タイトルだけ聞くとホラー小説かと勘違いされるかもしれませんが、実際は耽美で少し不思議なラブストーリーです。
主人公は「標本室」で働く若い女性で、彼女は過去に働いていたサイダー工場で作業中の事故によって
左手の薬指の先を失ってしまいました。工場を辞め、彼女が新しく働き始めたのは一風変わった「標本室」そこは人々が思い出の品を持ち込み、標本にしてもらうという奇妙な場所でした。
例えば楽譜に書かれた音、文鳥の骨や、火傷の傷痕。それらを標本にするのです。品々を標本にするのは経営者であり標本技術士である弟子丸氏の仕事で、彼はもの静かで印象的な視線を持つ男性でした。
もともと古い女子専用アパートだった標本室は いつも静かでゆっくりとした時間が流れています。
ある日、主人公は弟子丸氏から黒い革靴をプレゼントされます。その靴は驚くほどぴったりで、まるで足をじわじわと浸食していくようでした。そして靴と同じように弟子丸氏の存在も 主人公の心をゆっくりと侵し始めていました。
女子専用アパート時代の古い浴場でのデート、決して入れない地下の標本技術室。静かにロマンティックにふたりの時は流れていきます。結末はどうなるのか、是非読んで確かめてみてください。
起終点駅 ターミナル(桜木 紫乃)
直木賞作家桜木紫乃作品、初の映画化原作!「始まりも終わりも、ひとは一人。だから二人がいとおしい。生きていることがいとおしい」―桜木紫乃
引用元:amazon
20代女性 この本は、女性を主人公とした短編小説が6本監修された、人の心に深い印象を残す素敵な作品です。主人公の女性たちの感情を比較的シンプルに表現しつつも、読む人一人ひとりの心にハッとさせられるような表現がされており、この小説を読み終えた後には言葉では言い表せないような不思議な達成感を感じるストーリーが盛り込まれています。
各小節の主題は、恋愛や仕事などすべての女性が経験してくる内容を基に 人生の儚さを語ったものが多く、自分が路頭に迷っているタイミングに読むと明日から頑張ろうと力を与えてくれる内容です。家族や古い友人といった、忙しい日々の中で忘れられていくかつての淡い記憶を、小さなことがきっかけで一気に思い出させられる点には 非常に心洗われる思いがしました。
7年前に初めて読み、当時読んだ時の記憶を思い出し先日久々に読み直してみましたが、当時感じた感動は変わらず 何度読んでも前向きな気持ちにさせてくれる感慨深い短編小説集です。
獣の奏者 1闘蛇編(上橋菜穂子)
児童文学のノーベル賞にあたる、国際アンデルセン賞作家賞受賞! 世界的注目作家の新たなる代表作。リョザ神王国。闘蛇村に暮らす少女エリンの幸せな日々は、闘蛇を死なせた罪に問われた母との別れを境に一転する。母の不思議な指笛によって死地を逃れ、蜂飼いのジョウンに救われて九死に一生を得たエリンは、母と同じ獣ノ医術師を目指すが―。苦難に立ち向かう少女の物語が、いまここに幕を開ける!
引用元:amazon
20代女性 幼いころ、動物飼育ミスの罪を着せられ処刑された母を持つエリンの成長物語。成長するにつれてエリン自身も動物との関係を深めていくものの、それが原因で国家規模の陰謀に巻き込まれていきます。
エリンにとってはある種因縁があるはずの動物との細やかなふれあいや、エリンの周りの人々の人物像の厚さに夢中になり、中学生だった当時は本にのめりこんで読んでいました。最終巻まで読み終えた後の読後感は、登場人物それぞれの壮大な人生のフィルムを見ているような感覚に陥り、それまでに味わったことのないものでした。
上橋菜穂子作品は世界観が深すぎて設定をつかむまでに時間がかかることも多いですが、この本はそこまで複雑ではなく、あくまで「人」にフォーカスした描写が多いと感じます。ぜひ最初から最後まで通しての読書をおすすめします。
江ノ島西浦写真館(三上延)
百年続いた写真館の館主、祖母・西浦富士子の遺品を整理するために、桂木繭は江ノ島を訪れた。かつてプロの写真家を目指していたが、ある出来事がきっかけで、今はカメラを持つことができない繭。懐かしい写真館を訪れ、祖母と親しかった人々と出会うことで、封印していた過去が少しずつ露わになっていく。そして―。写真の謎解きと、人間の過ちと再生を描く物語。
引用元:amazon
20代女性 写真館を営んでいた祖母の遺品整理のために江ノ島を訪れた孫が、注文したまま誰も取りに来ない残された写真を返そうとするうちに、その写真を取り巻く人々のドラマに引き込まれていく物語です。
写真の関係者にも繊細で触れづらい人間模様がありますが、主人公の繭自身にも古傷となった過去の記憶が残っていて、徐々に明かされていく彼女の過去には特に繊細な心理描写を感じ取れました。
登場する人物たちの様々な過去はかなり心にくるような内容が多いのですが、それでも写真を通じて謎を解き明かすワクワク感や、この過去にどのような折り合いをつけるのだろうという見守りたくなるような焦燥感は、読了するに値すると思うのでおすすめしたいと思います。
海賊とよばれた男(百田 尚樹)
ページをめくるごとに、溢れる涙。これはただの経済歴史小説ではない。一九四五年八月十五日、敗戦で全てを失った日本で一人の男が立ち上がる。男の名は国岡鐡造。出勤簿もなく、定年もない、異端の石油会社「国岡商店」の店主だ。一代かけて築き上げた会社資産の殆どを失い、借金を負いつつも、店員の一人も馘首せず、再起を図る。石油を武器に世界との新たな戦いが始まる。石油は庶民の暮らしに明かりを灯し、国すらも動かす。「第二の敗戦」を目前に、日本人の強さと誇りを示した男。
50代女性 モデルになる人がいるので興味があり、とても面白かったです。読み終わった後に何か「自分もこうしてはいられない」ような気持ちになります。それぞれのエピソードが苦難に溢れているのですが外車の仲摩を愛し、信じて突き進んでいくさまに本当に感動しました。こんな風に社長や会社との間に信頼関係があって働けたら素晴らしいし幸せだろうと思います。
特に印象深いのはイランとのエピソードです。誰もが引き受けないような仕事も会社が一丸となり成功させていく。戦前戦後の社会の様子やそのなかでたくましく生きていく人たちの姿は本当にいきいきしています。内容はすごく濃いのに読みやすい文章なので あっという間に読み終わりました。元気をくれる素敵な作品です。
海が見える家 (はらだみずき)
ワケあって、田舎暮らし、はじまる。
苦戦した就活でどうにか潜り込んだ先はブラック企業。働き始めて一ヶ月で辞職した。しかし、再就職のアテもなければ蓄えもない。そんな矢先、疎遠にしていた父親の訃報が飛び込んできた。孤独死したのか。どんな生活を送っていたのか。仕事はしていたのか。友人はいたのか。父について何も知らないことに愕然としながらも、文哉は南房総にある父の終の棲家で、遺品整理を進めていく。
はじめての海辺の町での暮らし、東京とは違った時間の流れを生きるうちに、文哉の価値観に変化が訪れる。そして文哉は、積極的に父の足跡をたどりはじめた。「あなたにとって、幸せとは何ですか?」と穏やかに問いかけてくる、著者新境地の感動作!
引用元:amazon
40代男性 千葉県は南房総、館山が舞台。この本の面白いところはその舞台が父親の残した家であり、その父親本人がすでに亡くなっている設定で始まることです。
父親とあまり大人になってから交流のなかった主人公は、父親が亡くなる間際の数年間連絡を取らないでいました。亡くなって残された家に住むことで数年間連絡を取っていなかった父親の生前最後の姿が見えてきます。
その亡くなる直前に父が何を残したかったのか、そして何を楽しみにしていたのか、なぜそのに住んでいたのか、その内容がリアリティあふれていていてとても共感できる部分でありました。
主人公本人には幼いころ見せなかった、本当の父の姿。子供のには見せられなかった恥ずかしい部分。そんなところが、人間味があふれていて、とても共感が持てました。
父親は大金を残してくれたわけではなく、唯一、丘の上に立つ海の見える家を残してくれただけでした。その残された家に住む間に主人公は、会社を辞め無職である自分と見つめ合う時間を持ちます。その中で主人公も知らない、父が若年時代から続けてたサーフィンに出合います。
父がサーフィンをしていた過去すら知らない自分の情けなさ。そして父がこの土地に住んでどのように収入を得ていたのかを、亡くなった父親の口から聞くのではなく、その土地に住むことによって知り、自分が何もしたなかったことに落胆します。
死んでから父の残した思いを受け取り、徐々に自分と照らし合わせ、自分を成長させていき、いろいろな技術と情報を得てゆきます。徐々に娯楽や仕事に対して力強くなっていく主人公の成長がとても爽快感がありました。
実際私も父を亡くしています。父を亡くすと誰しも感じることなのかもしれませんが、自分が知っているつもりであった父の姿は『すべて』ではなく、ほんの一部であった。そう感じます。亡くなってから出てくる遺品の数々を目にしているうちに、父が残したメッセージのようなものを感じます。
この本と照らし合わせつつ感じることは、亡くなる人が残したい『想い』はきっと本人ですら、残される人に伝えきることができず、亡くなっていくのではないか…ということです。そしてジリジリと亡くなってから伝わってゆくこともたくさんあるのです。
私も父が残した『想い』のように、自分が亡くなっても伝わる何かを、生きているうちに残したい。そう思います。ミステリーのように亡くなった後、『え!この人はこんな一面があったの?!』というような亡くなり方をしたいと思いました。
コンジュジ(木崎みつ子)
【第44回すばる文学賞受賞作】【第164回芥川賞候補作】二度も手首を切った父、我が子の誕生日に家を出て行った母。小学生のせれなは、独り、あまりに過酷な現実を生きている。寄る辺ない絶望のなか、忘れもしない1993年9月2日未明、彼女の人生に舞い降りたのは、伝説のロックスター・リアン。その美しい人は、せれなの生きる理由のすべてとなって……一人の少女による自らの救済を描く、圧巻のデビュー作。
【川上未映子氏、絶賛!】とんでもない才能。サバイブの果てに辿り着く、こんなに悲しく美しいラストシーンをわたしは他に知らない。深く、胸を打たれた。この小説が見せてくれたもの、ずっとわたしの宝物です。
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30代女性 この作品は 主人公の正木せれなという31歳の女性が、自らの人生(20年間)を振り返る形式になっています。
せれなは娘の10歳の誕生日に男と蒸発するような身勝手な母親と、仕事をクビになり妻が家を出て行ったショックで何度も自殺未遂をするような弱い父親の元で育ちました。父親は生活を立て直すために、年下のブラジル人の女性を内縁の妻として迎え、いびつな3人暮らしが始まりますが、その女性もやがて家を出て行きます。
それから父親は成長期を差しかかったせれなに性的な目を向けるようになり、彼女は5年以上にわたって凄まじい性的虐待を受けます。どこにも逃げ場のないせれなは、すでに鬼籍に入ったイギリスの伝説的ロックバンドのボーカル・リアンとの日々を”妄想”することで、どうにか生き延びようとします。
何故この作品が 私にとって人生や終活について考えさせられるきっかけになったかと言うと、自分はせれなほど悲惨な状況ではありませんが、子どもの頃に性被害を受けた経験があり、それは未だに人生に強く影響を及ぼしています。
男性となるべく関わらないように生きてきたのですが、30代に突入すると結婚が”夢”ではなく”人生に必要なもの”へと姿を変えていったのです。金銭や病気、老後の心配が肥大化し、結婚願望がないのに婚活を始めたりしていました。
しかし、この作品を読んで考え方が変わりました。
フィクションの世界には、“トラウマを受けた人物がそれを理解して受け入れる人と出会えて幸せになる”系の作品が多いです。そのこと自体は素晴らしいですし、現実にもあることだと思うのですが、トラウマを抱えて不審に陥った人間が恋愛をしたり、結婚するのは至難の業です(これは実感としてあります)
この作品ではそんな大切な相手に出会えなかった人間の生き様、生き方が真摯に描かれ、そんな人間に向けた確かな”救済”も用意されています。
読後、私は無理に結婚を考える必要はないと心が軽くなりましたし、「老後も一人でもいいや、今はとりあえず貯金を頑張っておこう」と、終活について考えるきっかけにもなりました。
過去のトラウマから迷いがあって結婚に踏み切れない、この先も一人で生きていけるだろうかと、漠然とした不安を抱えている方に是非読んでいただきたい作品です。
秋の四重奏 (バーバラ・ピム)
ロンドン、全員ひとり暮らしの男女が四人。共に、同じ会社に勤め、定年間近の年齢である。まず女性二人が退職する。そのうち、マーシャがやがて亡くなり、レティは老後の生活になんとか順応しようと努める。男たち、エドウィンとノーマンはまだ勤めているが、まもなく会社を去ることになるだろう。
こうした四人の平凡な日常風景——職場のやりとりや昼食、互いのささやかな思いやりやすれ違い、ヴァカンスやクリスマスの計画、遺産相続などが淡々と描かれるだけで、何であれ、劇的な事件には発展しない。マーシャの死さえも日常生活の中の一齣にすぎない。これら凡庸な四人のありふれた 〈老い〉 が、この味わい深い上質のユーモアに満ちた 〈コメディ〉 の核心をなしている。
われわれはここで、静かに奏でられた、ふつうの現代人の、孤独な〈生と死〉 の意味あるいは無意味に向き合うことになる。温厚かつ辛辣な作風によって、〈現代のオースティン〉 という声価を得た英国作家の代表作。
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30代女性 定年を間近に控えた独身(離婚含む)男女四人の淡々とした生活を、リアルに描いた作品です。
同じ会社の同じ部署で働く四人、彼らが定年したらその部署はなくなる予定のようで、新人が入るわけでもなく、1人ずつ静かに退職していきます。
彼らの生活には大きな出来事が起こりませんが、それぞれ色んなことを考えて生活しています。
アパートの大家が異教徒で困惑したり、義理の弟を見舞いに行ってその弟のことが苦手な様子などが細かく書かれていたりします。
先に退職した人のことを残された人たちがからかうような、憐れむような、もしかしたら蔑んでいるような会話もありますが、彼らが不幸かといったら全くそうではないなと思いました。
自分が年を取って、死に直面するまでに色んなことをちゃんと出来るかしら…
彼らの1人が仕事を辞めてから服装など身だしなみに気を使わなくなり、だんだん世間の感覚からずれてボケてしまったような描写には自分の身にも起こりうることだなと気持ちが改まりました。
自分が高齢になった時に考え方に偏りが出たり、思うように動けなくなったりすることもあると意識できて良かったです。
翻訳の文体もよく、作者が女性だからか 特に女性の人物が生き生きと描かれていて、普通と言えば普通、個性的と言えば個性的な高齢者と言われる直前?のイギリス人女性が目に浮かぶようでした。
待賢門院璋子(たいけんもんいんしょうし)の生涯 椒庭秘抄 (角田文衛)
白河法皇という絶対権力者に愛され、この男を愛した女。この男ほど、我欲のために強権をほしいままにした男はいないだろう。かの豊臣秀吉でさえ霞んで見える。欲望を制する術も必要もなく、心を傾けた何事にも狂気的に執着したこの男に、全身全霊をもって愛され、娘として愛人として弟子として一身にその想いを受けた女は、その唯一無二の神を喪った人生をどう生きるのか。男女関係におおらかな時代にありながら、人々に不倫とその存在を形容せしめた女は、果たして、稀代の悪女であったのか。
権力欲、色欲、物欲を日々充たし、我が世の安寧のためだけに巨万の富を寺社建立や密教修法などに使った、白河法皇の性質を色濃く受け継いだ女。しかし神を喪い、夫である鳥羽上皇も、やがて若い女にのめり込んでいくなかで、白河法皇のように燦然と輝くことは「女」であるがゆえにもはや不可能であった。
本書は、当時の貴族の日記など数々の史料に散見される記述をもとに、あるいはその行間から、彼女の生きざまを浮き彫りにしていく。現代の道徳観念とはまったく異なる時代の人々を考察することの困難さはいかばかりであったのか。侍賢門院が、筆者にとって見果てぬ夢の女だったから、成し得たことなのかもしれない。男女の性差から、推測に異を唱えたくなるくだりがないとは言わないが、深い内容であることに間違いはない。何十年も前の作ながら、鮮やかに咲き誇る名著である。
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40代女性 藤原璋子(女院号は待賢門院)は、源平騒乱の時代の「運命の女」人によっては「平安時代を終わらせてしまった元凶」とも言われる存在です。
この本は実は小説でもなく哲学者でもなく、平安時代の歴史の学術書であり、作者は平安時代の歴史学の大家です。内容は待賢門院の生い立ちから死後までを丹念に考察したものでまさに大著。
幼くして父を亡くすものの時の最高権力者、白河院の元で養女となり溺愛されて成長し、やがて白河院の孫の、鳥羽天皇の中宮となって多くの子を産み、なかでも崇徳、後白河の二人の天皇の母となります。
しかし彼女は幸せだったといえるのか?私の世代では優しく真面目な人と家庭を持ち、子供に恵まれればそれで幸せだったと言えます。
時空の異なる遠い存在の待賢門院ですが、リアルになるのはここからです。待賢門院は養父の白河院と10代前半から肉体関係にありました。まずここは現代なら性的虐待です。しかもこれは当時の都中の周知の事実だったのです。
結局外聞を気にした白河院は孫の鳥羽天皇に入内させます。鳥羽天皇は美貌で名高い待賢門院をかなり深く愛していた様ですが、白河院との関係はその後も長く続きました。
崇徳天皇は白河院の子であると言われます。(我が子ということにされているが、年下の叔父…)という鳥羽天皇の苦悩が源平騒乱の根になるのです。
そんな華麗な待賢門院の最期は、孤独と病に苦しみながらひっそりと幕を下ろしました。
その美貌ははるか年下の西行法師も憧れたとされています。待賢門院の死を悼んだ和歌が、墓前に手向けられた花のように印象的です。
一見別次元の世界ですが、人間の苦悩や死は 今も昔もさほど変わらないと思いました。
同姓同名(下村敦史)
登場人物全員、同姓同名。ベストセラー『闇に香る嘘』の著者が挑む、前代未聞、大胆不敵ミステリ。
大山正紀が殺された。犯人は大山正紀。大山正紀はプロサッカー選手を目指す高校生。いつかスタジアムに自分の名が轟くのを夢見て練習に励んでいた。そんな中、日本中が悲しみと怒りに駆られた女児惨殺事件の犯人が捕まった。週刊誌が暴露した実名は「大山正紀」報道後、不幸にも殺人犯と同姓同名となってしまった”名もなき”大山正紀たちの人生が狂い始める。これは、一度でも自分の名前を検索したことのある、名もなき私たちの物語です。
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20代女性 『同姓同名』は猟奇殺人犯人と同姓同名になってしまった人々の苦悩を描いた小説です。この作品の凄いところは「作中で名前が出てくる人物」に限定すれば、登場人物全員が同姓同名の『大山正紀』であるという点。非常に挑戦的なテーマであり、この情報の時点でストーリーの中に何らかの叙述トリックが仕掛けられていることが予測できます。
しかし、登場人物全員が同姓同名なんて小説として成立しないのではないか、と読む前に心配していたのですが、作中では「サッカー部だった大山正紀」「細目の大山正紀」というように、どの大山正紀がどの大山正紀かが分かるようにきちんと書き分けがなされています。だから意外と、普通の小説と変わらないくらいスラスラ読てしまうところも面白かったです。
その一方で、やはり今焦点が当たっているのがどの大山正紀であるのかが意図的に伏せられているパートもあり、その隠し方が叙述トリックものとして非常に自然で、叙述ミステリー好きにはたまらない作品となっていました。
また、この作品は「少年法」もテーマのひとつになっています。猟奇殺人犯として逮捕された大山正紀が未成年で、顔をはじめほとんどの情報が世間に公表されなかったからこそ、たくさんの「大山正紀」が苦しむことになったのです。
未成年の殺人犯、そして同姓同名。このふたつが生み出す悲劇は、私がこれまでの人生で疑問にすら思ったことがないもので、非常に考えさせられました。
平場の月(朝倉かすみ)
第32回山本周五郎賞受賞。これがリアルな大人の恋愛小説!
須藤が死んだと聞かされたのは、小学校中学校と同窓の安西からだ。須藤と同じパート先だったウミちゃんから聞いたのだという。青砥は離婚して戻った地元で、再会したときのことを思い出す。検査で行った病院の売店に彼女はいた。中学時代、「太い」感じのする女子だった。五十年生き、二人は再会し、これからの人生にお互いが存在することを感じていた。
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40代女性 40過ぎてすぐの頃の私はとても焦っていました。
人生これでいいのか、もっと違った生き方があったのではないか。こうあるべき、ではなく、自分自身の人生を生きてきたのだろうか。求められる有り様が、いつのまにか自分自身の考えや夢と勘違いしていなかっただろうか…。
それでも、子供の教育も途中であり投げ出すわけにはいかない。親のこと、ローンのこと、仕事のこと。やり場のない気持ち、がんじがらめの立場。新しい何かにチャレンジするには不安も覚える、確実に衰えを感じはじめた身体。
どうしようもない焦りの中で、やはり日々を丁寧に紡ぐことしか出来ない自分自身が、情けなくもあり、愛おしくもあり。これが人生なんだろうな…と思い始めた頃に読んだ本です。
人を、自分を愛することが難しくて、青砥の愛を受け入れることが出来なかった須藤。息を引き取る直前に青砥の心配をした須藤は、その人生で「最後は愛を知ることができた」人なんだろうと思うと救われました。
悲恋だけれど、受け入れることできなかったけれど、愛そのものを否定していたわけではなかったんだろうと思います。
自分の人生ってなんだったんだろうと笑う須藤。幼馴染みの息苦しいほどの詮索や毒と、妙な安心感との狭間でなんとかバランスを取りながら日々を過ごしています。華やかでもなく、加齢臭もほのかに漂ってくる二人の、だからこそ気持ちのピュアさに涙が出ました。
中学時代の最初の恋の芽生え…人生いろいろ経験したからこそ、今だからこそいろいろ削ぎ落とされて、そこに立ち戻ったような。
須藤の面倒を見る青砥。青砥のような気持ちになれるだろうか?逆に青砥のような人が自分の回りにいるだろうか?と自問自答しながら読了しました。
風の盆恋歌(高橋 治)
散る前にせめて一度は酔いたい、あの酔芙蓉のように…。ぼんぼりに灯がともり、胡弓の音が流れて、風の盆の夜が更ける時、死の予感に震える男と女が忍び逢う…。互いに心を通わせながら離れ離れに二十年の歳月を生きた男女が辿る、あやうい恋の旅路を、金沢、パリ、八尾を舞台に描く長編。
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30代女性 物語の季節は夏なのにどこか涼しさを感じさせる小説です。その涼しさは大人の恋愛だから感じさせるのか、もしくは2人の脆くて悲観的な恋愛のせいからなのか、読み終えた後でも分かりませんでした。きっと読み手によって感じ方が変わる、そんな恋愛小説です。
物語の描写が細かくて、街の風景や胡弓の音などの情景が凄く目に浮かびます。テーマは「大人の不倫」です。
年に1度、富山県の越中おわら風の盆祭りの時期にだけ2人だけの空間で愛を育てていきます。この越中風の盆がまたいいんです。ただ静かに、流れるように時が過ぎつつも 確実に思い出が心に残る風の盆祭りなのですが、この祭りの様子が2人だけの時間と共通するものがあります。
日々の疲れた心をただ優しく癒し、水が上から下へ流れるようにさらっと過ぎる時間。色褪せることなく思い出に残る。まさにこの小説の2人の恋愛と同じなんです。
途中、若い頃の回想で様々な舞台が登場します。隣県の金沢、パリと色んな舞台が出ますがどれも情景浮かび、あっという間に読み進めてしまう小説です。
私は女性なので、主人公の女性の気持ちに共感できない部分がありましたが、最後は強く共感し涙してしまいました。共感出来ない部分も含めて、もし女性が書いていたらきっと全く違った小説になっていただろうな。男性が書いた物語だからこそテーマが「不倫」でも儚く、純愛に書けたんだろうなと思いました。
きっと読み終えた後にYouTubeなどで「越中おわら風の盆」を見たくなると思います。そして胡弓の音を聞いて、2人を思い浮かべて静かにゆっくりとした時間を取りたくなる。ぜひ大人の世代に読んで欲しい1冊です。
52ヘルツのクジラたち(町田そのこ)
52ヘルツのクジラとは―他の鯨が聞き取れない高い周波数で鳴く、世界で一頭だけのクジラ。たくさんの仲間がいるはずなのに何も届かない、何も届けられない。そのため、世界で一番孤独だと言われている。自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれていた少年。孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、新たな魂の物語が生まれる。
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50代女性 52ヘルツのクジラという不思議なタイトルに惹かれて読み始めました。
主人公は親から虐待され続けるキナコです。こんな現実があるんだろうかと読みながら胸が締め付けられました。お母さんに愛して欲しいのに、実の母親がここまでするのか…と思うと、これはもう狂気でしかないと思います。
そんなキナコが友達やアイさんに出会うことでやっと虐待から解放されたのに、やっと幸せになれると思ったのに、運命とはこんなにも残酷なのかと…読んでいて悔しくてなりませんでした。
過去は変えられませんが、この残酷な運命のお陰でキナコは 母に虐待されるムシと呼ばれる少年に会う事が出来ました。同じ境遇で育った2人だから、放置できないし、何とかしなければと思うキナコの心が痛いほどわかります。
この物語は、虐待やトランスジェンダー、子供に介護を押し付ける親や認知症など、今の社会で問題になっている重い問題が描かれています。
少年もキナコもアンさんも、登場人物たちはみな52ヘルツの誰にも届かないであろう声を発し続けていました。その声を誰かが気づいてあげることで、きっと運命をその人の人生を変える事が出来るように思いました。
こんな悲しい事が現実から無くなる事を祈りたいし、自分も52ヘルツの声を聞ける人間になりたいと思います。
ミッテランの帽子(アントワーヌ・ローラン)
その帽子を手にした日から、冴えない人生は美しく輝きはじめる。舞台は1980年代。時の大統領ミッテランがブラッスリーに置き忘れた帽子は、持ち主が変わるたびに彼らの人生に幸運をもたらしてゆく。うだつの上がらない会計士、不倫を断ち切れない女、スランプ中の天才調香師、退屈なブルジョワ男。まだ携帯もインターネットもなく、フランスが最も輝いていた時代の、洒脱な大人のおとぎ話。
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30代女性 表紙からしておしゃれな1980年代のフランスが舞台の連作小説です。当時の大統領ミッテランの帽子が一度持ち主の手を離れ、色んな人の人生を好転変化させながら、また持ち主の元に戻るという話でとても面白かったです。
私はフランスにも行ったことはないですし、正直ミッテランと聞いても顔は思い浮かびませんでしたが、この本の描写だけで充分当時の雰囲気というか、ミッテランの雰囲気や人気などを感じることが出来ました。
帽子を手にする人の職業や置かれている立場は様々。みんな何か問題を抱えているのですが、それが色んな形で好転していきます。何かの節目など、気分を変えたい時に読むと良いかもしれません。新しいことを始めてみたくなるような本です。
「帽子を拾ったら良いことがあった」となるとやはり手元に無くなることで不安になって探す人が出たりするのですが、その気持ちはすごくわかる!と思いました。何かをきっかけにうまく行くと次も同じにしたくなる…本当はそれがなくても大丈夫なのに。なくちゃいけない気がしてくることはあると思いました。
全体の雰囲気もおしゃれで 男女どちらでもどんな世代の人でも楽しめて翻訳もとても良い感じです。普段海外ものを読まない人にもおすすめです。
大人は泣かないと思っていた(寺地はるな)
「こうあらねばならない」の鎖を解いてくれる。それが寺地さんの描く物語だ。──こだまさん(エッセイスト)真夜中の庭で出会った二人の、はじまりの物語。
時田翼32歳、農協勤務。九州の田舎町で、大酒呑みの父と二人で暮らしている。趣味は休日の菓子作りだが、父は「男のくせに」といつも不機嫌だ。そんな翼の日常が、真夜中の庭に現れた”ゆず泥棒”との出会いで動き出し……(「大人は泣かないと思っていた」)。小柳レモン22歳。バイト先のファミリーレストランで店長を頭突きしてクビになった。理由は言いたくない。偶然居合わせた時田翼に車で送ってもらう途中、義父の小柳さんから母が倒れたと連絡が入って……(「小柳さんと小柳さん」)ほか全7編収録。恋愛や結婚、家族の「あるべき形」に傷つけられてきた大人たちが、もう一度、自分の足で歩き出す──色とりどりの涙が織りなす連作短編集。
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30代女性 この本は自分や他者に「こうあらねば」「○○であるべきだ」という考え方があったり、そういった考え方を押し付けられて生きづらい人におすすめします。
休日のお菓子作りを趣味としているために「男らしくない」などと言われている男性を主人公に、その主人公と彼の周りの人々それぞれの「こうあらねば」「こうあるべきだ」という考えによる生きづらさに向き合う物語です。
この世の中には「こうあらねば」「こうあるべきだ」という考え方が意識・無意識さまざまに数多くあると思います。さらに自分自身で思う場合と他者に対して思う場合があります。私自身がそういう考え方を家族にかなり押し付けられてうんざりしているタイミングで出会った本だったのでかなり響きました。
「女性なんだから」「男らしくあらねば」のような考え方、自分自身に対して向けているならいいのですが他者に向けるのは…向けられたほうはたまったものではない。でも案外向けられたほうも無意識のうちにやっぱり「そういうもんだ」と半ば諦めのように受け入れてしまうような気もします。
私はそういった考えを家族から押し付けられて息苦しさを感じていましたが、自分も他者に「こうあるべきだ」と向けてしまっていることがあるのだろうとも思います。
物語の中とはいえ、自分と同じような気持ちの人がいる、という感覚になれたのはとてもうれしかったです。手短に言うと、「○○らしくあらねば」なんていらんよな!と物語の登場人物たちと肩を組んで笑ったような気分です。
「こうあらねば」よりも「こうなりたい」「これが好き」を積み重ねて生きていきたいものです。それは難しくて、所詮は綺麗ごとかもしれませんがシンプルにそう思いました。
高丘親王航海記(澁澤龍彦)
貞観七(865)年正月、高丘親王は唐の広州から海路天竺へ向った。幼時から父・平城帝の寵姫・藤原薬子に天竺への夢を吹きこまれた親王は、エクゾティシズムの徒と化していたのだ。占城、真臘、魔海を経て一路天竺へ。鳥の下半身をした女、良い夢を食すると芳香を放つ糞をたれる獏、塔ほど高い蟻塚、蜜人、犬頭人の国など、怪奇と幻想の世界を遍歴した親王が、旅に病んで考えたことは…。遺作となった読売文学賞受賞作。
奇跡としか表現のできない大傑作なのだ。今世紀どころか、これまでの日本文学の中でも、これほどの水準に達した物語を私は読んだ記憶がない。高丘親王の日本から天竺に至る七つの夢幻譚は、読者である自分の垢染みた心の殻を一枚ずつ剥がしていく怖さと喜びに満たしてくれた。(高橋克彦氏の解説より)
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40代女性 この本は道を求めながら、その道の見つけ方を探す人におすすめします。
この本を最初に読んだのは中学生の頃。そして読み返したのは去年です。印象がガラリと変わり愕然としました。
高丘親王は平安時代前期の皇族で、一度は皇太子であった人物ですが 政変に巻き込まれ廃太子となり出家します。いかにも儚げな貴公子のイメージですが、なんとこの後唐へ留学し( 船が難破する確率は相当高く危険な行為でした)更にインドを目指し消息不明になっています。なんというバイタリティ。後には釈迦の前世になぞらえて、飢えた虎の親子に我身を与えたという説話が生まれたほどです。
この予備知識で読むと いきなり展開されるのは、死という真理に向かって生き生きと進む親王の姿です。旅で行き交う生身とも精霊ともつかぬ不思議な生き物たち、古代とも未来とも見える都市や寺院。全体的には幻想冒険奇譚ですが、一貫して死への憧れが根底を流れています。
「プラスチックのように綺麗な」舎利の描写や、死んでいく生き物たちに注がれる温かな眼差しは、ほろ苦くも甘美です。この辺りは、当時中学生であった私には不可解でした。(この人、死にたいのか、生きたいのかどっち?)と思いながら読んだものです。
読み返してはっきり見えてきたのは、浮遊感です。生と死を見守る世界でした。
現実は忙しすぎて生と死を考える余裕もない日々です。そんな日々にこの本を開けば、フワリとこの世界に滑り込み、生き生きと死へと向かう親王一行の傍で行き交う生と死を眺めることができます。
肉親の死は涙があふれ、友人の死もやるせない。では紛争地帯の子供たちの死は?飼っていた猫の死は何年経ってもやり切れず、でも道端で轢かれて死んだ猫の死は?それらの全ては同じものであるならば、人の心はもっと自在になれるのかもしれない。
浮遊した目線から眺める世界は穏やかです。ですがまだ死をそんなふうに昇華する事はできませんが。
クリスマスキャロル(チャールズ・ディッケンズ)
クリスマス前夜、けちで気むずかしいスクルージの前に現れた3人の幽霊たちは、過去・現在・未来を見せてくれたのですが…。19世紀イギリスのクリスマスをいきいきと伝える物語。
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30代男性 この本は人生を豊かに生きたいと思っている方におすすめします。
有名な作品なので話の内容を知っている方も多いかもしれません。しかし、私はこの本から多くの事を学ぶ事ができました。
けちで意地悪な性格の主人公スクルージは、クリスマスを楽しむ事すら軽蔑しています。彼は、クリスマスは毎年ひとつ年をとった事を思い起こさせるイベントであり、決して良いものではない、と考えており、その事からも性格の悪さが伝わってくるようです。スクルージは金持ちであり、豊かな生活を送っているのですが、なんだかその心の持ち様は貧乏です。
デール・カーネギーの「人を動かす」という本にも、高価な宝石で身を飾りながら、意地悪そうな表情を浮かべているために、美しさが台無しになっている女性の話が出てきて、作中では、彼女は、心という最も美しさが必要な部分に、その必要性を忘れているために、それが顔に出ているのだ、と述べられています。
恐らく、スクルージも、その女性と同じように、心という一番大切な部分を疎かにしているために、その醜さが外に表れている人物だと思います。お金は持っていても、心が貧乏なために幸せになれない、という典型的な例が、スクルージではないか、と思いました。
しかし、そのようなスクルージも、様々な体験を経る事によって、改心していきます。
自分の部下が、家族でクリスマスを祝っている所に遭遇した時の情景も印象的です。スクルージの部下クラチットは、家族でクリスマスを祝い、プディングを食べているのですが、貧乏な一家は、大きなプディングを買う事ができず、小さなプディングを少ししか食べる事ができません。しかし、クラチット一家には、小さなプディングに不平を言う人もおらず、皆がクリスマスを楽しんでいます。
個人的には、この部分がとても印象的でした。現代社会を生きる我々は、少なくても衣食住は保証されており、クリスマスに大きなケーキを食べる位の余裕はあります。しかし、スクルージのもとでこき使われ、それでも貧乏なクラチット一家は、小さなプディングにも不平を言う事なく、楽しくクリスマスを過ごしています。
そのような時、物質的に恵まれている自身の生活の豊かさを思い知らされましたし、クラチット流の精神は大切にしていかなければならないと思いました。
その後、スクルージは、幽霊に連れられて、裏寂れた墓に眠る未来の自分を目撃します。このままの生活を続けていたら、誰からも愛されず、寂しく死んでいく事を予感したスクルージは、人生についての考えを改めます。その体験以降、スクルージはクリスマスを陽気に過ごし、その後も皆に好かれる人物になっていきました。
メリークリスマス!と陽気になるだけで気分が楽しくなり、人生が輝くというのは、心の持ちようとして何か大切なものがあるような気がしました。ここでは、人生というものについて、また、今のままの生活を続けていたら自分が死ぬときはどうなるのか、という事について、大切な事が語られていると思いました。
氷点(三浦綾子)
妻・夏枝が逢い引きをしている隙に3歳の娘を殺害された辻口は、夏枝への復讐のために、密かに当の殺人犯の娘・陽子を養女にする。
引用元:amazon
30代女性 この作品の舞台は北海道です。医者・お金持ち・美人など、世間的に「成功者」と呼ばれる家庭にも、それぞれ根の深い悩みがあり、どんなに優しい人にもエゴがあり、自分が大切にしている何かが崩れた時、生きる気力さえ失ってしまう恐ろしさが描かれています。
私も考えすぎてしまうことで人間関係に悩むことがよくありますが、どんな人の中にも人間関係の悩みが存在することを本書は改めて教えてくれます。キリスト教の考えも度々登場し、以前は全く興味がなかったけれど、そういった面も少し面白そうだと考えるようになりました。
幼女の殺人、少女の自殺未遂、子供を捨てた親など、ニュースで見るととても読みたくないテーマですが、ここではその事実を人間ドラマや当事者の感情に沿ってかなり詳細に描いているので、読み進めやすい内容になっています。
これは「氷点」の上・下、さらに「続氷点」の上・下と とてもボリュームのある作品ですが、私にとっては一度読み出したら続きが気になって ついつい止まらなくなってしまう中毒性を持ったシリーズでした。
ドラマ化されているのでご存じの方も多いかもしれませんが、私はドラマを見ていないので、登場人物像を自分で想像しながら読み進めていくのがとても楽しかったです。
古い作品ですが、難しい言葉はなく読みやすいので 学生にもおすすめの一冊です。
四季・奈津子(五木寛之)
22歳の奈津子は、自らの人生を選び取るため、東京で暮らすことを決意する。純粋に生きる女性の愛と冒険を描いた傑作。
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30代女性 この本は自分の生き方にどこか不満を感じている人におすすめします。
この作品は奈津子、波留子、布由子、亜紀子という四姉妹の人生を描いた本になっています。この四季・奈津子では題名の通り奈津子がメインとなって描かれているのですが、予想のつかないストーリー展開にいつしか夢中になって読みました。
九州で平凡な人生を送っていた奈津子が ある日ひょんなことがきっかけでカメラマンの中垣という男性に出会い、自分のヌード写真を撮るという約束を取り付けます。
奈津子はに恋人もおり、自分のこれからの生き方に大体の見通しが立ってしまっていることにモヤモヤしたものを抱えていました。そして思い切って全てを断ち切り、東京での生活を始めます。読んでいて、直感のまま、本能のままに突き進んでいく奈津子にどんどんと惹かれていきました。
最初は「せっかく結婚を望んでいる恋人もいるのになんて勿体ないことをするんだろう」と思っていましたが、東京に行き、色んな人に出会い、色んな体験をし、どんどんと自分を解放していく奈津子を羨ましく感じるようになっていました。
自分の人生はこのまま何の変化もなく終わっていくのだろうか。毎日同じことの繰り返しでいいのだろうかと思っていたので、まるで奈津子が自分の代わりに未知なる世界に羽ばたいて行ってくれているように感じました。
歳を重ねるごとに、色んなしがらみができ、環境や人との関わりをそう簡単には変えられなくなっていきます。しかしこの本に出会って自分は何をしたいのかもう一度考えてみようと思いました。
奈津子だけでなく、他の3人の姉妹の全く違った生き方や考え方も衝撃でした。
スーツケースの半分は(近藤史恵)
三十歳を目前にした真美は、フリーマーケットで青いスーツケースに一目惚れし、憧れのNYへの一人旅を決意する。出発直前、ある記憶が蘇り不安に襲われるが、鞄のポケットから見つけた一片のメッセージが背中を押してくれた。やがてその鞄は友人たちに手渡され、世界中を巡るうちに“幸運のスーツケース”と呼ばれるようになり…。人生の新たな一歩にエールを贈る小説集。
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20代女性 主人公・真美は偶然フリーマーケットで見かけた青いスーツケースに一目惚れし、思わず買ってしまいます。この小説はそんな一つのスーツケースが真美やその友人を旅に導き、それぞれが人生を見つめ直すきっかけを生んでいくというストーリーです。
この小説を手にしたときはさまざまな旅行先でののストーリーが描かれていることを期待していました。しかし読んでみると9つそれぞれのストーリーはどれも「旅行に出るまで」のお話で、旅行中のお話ではありませんでした。
ですが高揚感と少しの不安を胸に旅に出る決心をする登場人物たちそれぞれの心の変化は、読んでいて共感する場面ばかりでした。コロナ禍で海外に旅行に行くのが難しい昨今、この小説を読んで久しぶりに旅行に行く前のあのドキドキを味わうことができました。
また、小説に登場する9人の登場人物はそれぞれ年齢も性格も旅行の目的もバラバラ。理由をつけてはなかなか行けていなかった憧れの地に向かう人もいれば、面倒なことを後回しにしてだらだらと滞在していた留学先で自分を見つめ直す決意をする人など。
9人の中にはきっとこの本を読む自分自身と重なるキャラクターを見つけることができると思います。そして読み終わった後には「新しい一歩を踏み出してみよう」という前向きな気持ちを持てる小説だと感じました。
旅行になかなか行けない今だからこそ、この小説を読んで旅行に行く前のあの気持ちを味わってみてください。
渇水(河林満)
水のように生きたいと思いながら干涸びてゆく人々―。生の哀しみを見据える名篇。文学界新人賞受賞作。
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20代女性 本書は水道代の滞った家をめぐって、水を止める市職員を通して格差社会に生きる人々の切ない姿、あわれみを乞い、時にふてくされ、反抗する滞納者の表情をやさしさと哀切をもって描いた佳作です。
この作品が生み出された背景が1990年前半、バブル時代にはお金を大量に湯水のように使う人たちがいる一方で、水をとめられるほど貧しい生活を強いられる人たちもいました。平成になってからは「おいしい水」を健康などのため、お金を出して買う時代になりました。
グローバル化で格差が進む現在、この作品を読んでみると、時代から取り残された人々を書きながら、次の時代の最先端となる格差社会を意識して描いていたことが伝わってきます。筆者の河林満氏はこの作品で文学界新人賞を受賞し、芥川賞候補になりましたが、57歳で亡くなっています。
氏の作風は古風であり派手さはないですが、両親が不在がちで停水におびえながら暮らす少女姉妹を気にかけずにはいられない市職員の心の揺れを、簡潔な文体で表現していて 心を打たれました。
今日の人生(益田ミリ)
ただただむなしいとき、おいしいものにであえた日、年齢を感じる瞬間、町で出会った人、電車の光景、そして肉親との別れ。2コマで終わる「今日」もあれば、8ページの物語になる「今日」もある。「今日の人生」の積み重ねが私の人生…。描き下ろしを加え、「みんなのミシマガジン」の人気連載「今日の人生」4年分が一冊に。大島依提亜さんデザイン、おもわず手元に置いておきたくなる、存在感のある造本にも注目です。
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40代女性 益田ミリさんのエッセイをおすすめします。益田ミリさんは4コマの漫画エッセイを主にかかれており、日々のことを描いたものや、みんなが「あるある」と頷ける職場での出来事を書いていたり、自身が旅行を好きということもあって時々旅のエッセイなども書かれています。
絵自体はとてもゆるい感じのものですが、その内容と彼女が感じていること、それを彼女独特の文章で表現していて、何か自分が忘れていたことに気づかされてハッとさせられることが多いです。
『今日の人生』もタイトルとおり、今日という一日の自分の人生。こう生きた…が 漫画も時々挟みながらエッセイとともに描かれています。
私は40代ですが益田ミリさんはもう少し年齢は上の方のようで、その年齢だからこそ感じられることなどもあって、共感できるなと思うところもあれば、私もこれからそんなことを経験していくのかも…と軽い覚悟を感じる内容もあります。
ご家族のことについては時にクスッと笑えるところもあれば、しんみりとしてなんとなく切なくて、少し涙がにじんでしまう…そんなところもあります。
でも、読み終えたあとになんとなくすっきりして、また明日も一日頑張るか!そう思える一冊です。
地獄の田舎暮らし(柴田剛)
「空気がきれいな場所で、憧れの戸建てに住んでみたい」「都会での生活に疲れたので、リセットしたい」「テレワークになって毎日会社に行く必要がなくなったので、自然あふれる場所で過ごしてみたい」「生活費が安い田舎で、のんびり暮らしたい」これまでも定年後のセカンドライフや、都心部での生活に疲れた移住などで、「田舎暮らし」の需要は増えつつあったが、最近はテレワーク・リモートワークを導入する会社の増加などからの移住が活況を呈している。しかし、移住者に関連したトラブルは絶えない。本書は安易な移住への憧れを持つ人に警鐘を鳴らしつつ、正しい知識を与える一冊。
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50代男性 テレビの旅番組などで田舎暮らしに憧れている方たちに、ぜひ読んで頂きたい一冊です。甘い言葉には裏があります。特に、小さな集落ほど様々な地雷がそこかしこにあります。
私は以前地方在住でした。小さな集落ではなかったものの、かなり本書に近い内容のものがいくつか見受けられました。
プライバシー筒抜けは当たり前。ゴミ袋の中身まで見られるのは覚悟しましょう。人間関係の複雑さは都会以上かもしれません。そのため派閥もあれば村八分もあります。生活コストも都会より高くつく可能性もあります。「田舎に住むのに個性は仇になる」という一文も印象に残りました。
別荘地についても触れてあるので、移住まではいかなくても 別荘を検討している方にも参考になるでしょう。そもそもなぜ自治体が移住者を募集するのか?それ相応の思惑があるからで、この本を読んで大いに腑に落ちました。
一方で移住者が配慮すべき点にも触れていて共感しました。マスクしない、ワクチン打たないなどは確かに問題になっていると耳にしていましたが、移住先への配慮を学ぶ事も怠ってはいけないと感じました。
それでも田舎暮らししたい人へのマニュアルもあります。読んでいて、特に人間関係の部分はかつて体験したものもあったので苦笑しました。田舎暮らしの取扱い説明書としてオススメします。
にほんのお福分け歳時記(広田千悦子)
◇「初詣のお賽銭は、5円が45円が吉」「2月2日のお灸は、効果が何倍にもなる」「七夕の願い事は、草木のしずくを加えた墨汁で書くと◎」などなど、四季の歳時にちなんだ福の呼び込み方を、1月から12月まで月ごとにご紹介。◇代表的な歳時はもちろんのこと、「衣がえの作法」「潮干狩りは楽しむ邪気払い」「梅雨の時期に水まわりをそうじして運を得る」「お中元、お歳暮の贈り方」など、暮らしに役立つ知恵も満載◇日本人なら誰でも納得の”暮らしの中に福を見つける実用書”。日々の暮らしを楽しく豊かにし、話の種にもなる1冊です。◇広田先生のすてきなイラストととともに、日本の四季と歳時をゆっくりと味わってください。
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30代女性 私達が住んでいるこの日本は、自然に囲まれた美しい国。そんな、この国の文化の美しさと良さについて、二十四節気になぞらえながら昔からの四季折々の伝統を紹介している本です。
丁寧で風が流れていくような美しい文章と合間に使われている挿絵や写真がとても美しいので、読んでいて、心が洗われるような感覚になります。思わず癒しを感じてしまう素敵な本です。
「お福分け」というタイトルの文字にもふと深い意味をを感じました。無理をせずに特別さを追いかけなくてもささやかな福はどこにでもあって それは誰でもすぐ見つけられる事…を改めて思い出す事ができました。
そんな、誰でも楽しみながら活用できる節気 それぞれの知恵がこの国には昔からあり、自然の福そのものとも言える幸せな昔の叡智をこの一冊で知る事ができます。
また、読んでから実際にわかったのですが、それぞれの節気の名はよく知られている中でも、意外とその詳細を知らない方々が多かったので ちょっとしたマナーの場でも役立つ内容が多かったです。
普段はもちろん、ビジネスや様々な場でも使える情報でした。四季のマナーとして活かせる情報がわかりやすく載っているのでどなたでも、その場に合わせて内容を活かせると思います。
何よりも、気楽にさらりと楽しんで読めるのが魅力だと思いました。疲れている時にも、そっと息抜きになる本です。毎日を豊かに楽しむ内容が数多く紹介されている本でしたので、日常や仕事に忙しい大人の方々へ、特にオススメしたいと思います。
おやさい妖精とまなぶ野菜知識図鑑 (ぽん吉)
おやさい妖精49種類。かわいくて、優しいおやさい妖精たちと野菜の特徴や栄養のことをまなぼう!!食べず嫌いもなおるかも!
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40代女性 農家の手伝いをされながらプロのイラストレーターをされている作者さんが書かれているこの本、各野菜の特徴・成分・おもな原産国、産地・料理という項目別に分かりやすく書かれていて、知識として役に立ちます。
野菜の知識があっても、どう料理すれば分からないという事がありますが、この本は、保存方法や相性の良い調理方法も写真付きで書かれているので、料理のレパートリーも増えます。
そして野菜と一緒におやさい妖精の生態も書かれているので、お野菜妖精と野菜両方を結び付けて、楽しく学べます。
本物野菜の写真とおやさい妖精のイラストと料理の写真、イラストだけでない構成で、図鑑というだけあって視覚的にも知識として頭に入りますし、本を開くと、イラストだけではなくアニメのようにセリフも書かれているので飽きません。
図鑑=難しいではなく、可愛らしい野菜の妖精が表紙・裏表紙と目に飛び込んできて、思わず本を開かずにはいられないほど 内容を知りたくなる魅力的な一冊です。
動物と野菜を掛け合わせたイラストなので、動物と野菜両方知ることが出来るのと、こんな妖精が居たら野菜嫌いの人はいなくなるんだろうなと思うほど、優しくあたたかなイラストです。
各項目の文章も、知りたい情報だけを記載しているので、読み疲れてしまうことはありません。生産量なども書かれているので、お子さんの社会や家庭科の勉強にも役立ち、本の見た目から引き込まれると思います。
イラストが好きな方やお料理をされる方にもお勧めしたい一冊です。
幸せなひとりぼっち(フレドリック・バックマン)
妻を少し前に亡くし、仕事も早期退職を勧告され、孤独に暮らす59歳のオーヴェ。近所に越してきた明るいイラン人女性パルヴァネやにぎやかなその一家と衝突をくりかえすうちに、少しずつ彼の人生が明らかになっていく……。 スウェーデンで80万部、全世界で250万部突破。全世界で笑いと涙を生んだ名作が待望の邦訳。
20代女性 主人公であるオーヴェは無愛想で頑固、そして近所の見守りを欠かさず、ルールを守らない住民には遠慮なく説教をするタイプです。妻に先立たれ、長年勤務した職場も退職することになった彼は、孤独な日々を送っていました。
ある日、向かいに引っ越してきた家族とふとしたことから交流を持つようになり、オーヴェの心はあたたかさを取り戻していきます。オーヴェの不器用な生き方は一見極端に思えますが、私たち誰もが抱く葛藤や悩みの象徴のような気がします。
彼が周囲との交流を持つ中で少しずつ変わっていく様子は、読者の心にそっと寄り添ってくれます。クスッと笑えるところもありながら、読み終えた際には温かく包み込まれるような気持ちになるヒューマンストーリーです。
20歳のソウル(中井由梨子)
作曲家になること、恋人との結婚…。たくさんの夢を抱えたまま、浅野大義は肺癌のために20年の短い生涯を終えた。告別式当日。164名の高校の吹奏楽部OBと仲間達が涙で演奏する大義が作曲した市立船橋高校の応援歌「市船soul」人生を精一杯生ききった大義のための1日限りのブラスバンド。関係者の証言で描く感動の実話ストーリー。
20代女性 千葉県に実在する市立船橋高校の吹奏楽部に所属していた男の子の実話です。主人公は、野球の強豪校でもある市立船橋のオリジナル応援曲を在学中に部活の仲間や恩師と共に作曲します。その楽曲【市船soul】は演奏すると得点が入るという神応援曲と言われ、今でも実際に甲子園予選などで演奏し続けられています。
ですが、その主人公は高校卒業後大学へ進学するも病に侵され 20歳という短い生涯を終えてしまいます。そんな主人公が悩みながらもまっすぐな姿勢で仲間たちを励まし、その完成した楽曲で多くの人を励まし、さらに病になった自分自身も励ます…という感動の実話となっています。2022年初夏に映画公開も決まっている作品です。
東京すみっこごはん(成田名瑠子)
商店街の脇道に佇む古ぼけた一軒屋は、年齢も職業も異なる人々が集い、手作りの料理を共に食べる“共同台所”だった。イジメに悩む女子高生、婚活に励むOL、人生を見失ったタイ人、妻への秘密を抱えたアラ還。ワケありの人々が巻き起こすドラマを通して明らかになる“すみっこごはん”の秘密とは!?美味しい家庭料理と人々の温かな交流が心をときほぐす連作小説!
30代女性 オムニバス式の話になっており、飽きることなく読める作品になっています。主人公の楓がすみっこごはんという共同台所と出会うところからストーリーが始まっていきます。
すみっこごはんを訪ねてくる人々はそれぞれの悩みを抱えており、色んな人生観、価値観を学ぶことができます。またその問題が料理を作ること、料理を味わうことで徐々に解決していくのを見ているとわくわくした気持ちを味わうことができますし、その素敵な描写に心が落ち着きます。食べ物の力や料理の魅力を改めて感じることができました。
また同じ台所や食卓を囲むことによって、人と人との繋がりが広がり、深まっていく様子も素敵だなと感じましたし、自分も大切にしていきたいなと思えました。
恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。(林 伸次)
誰かを強く思った気持ちは、あの時たしかに存在したのに、いつか消えてしまう。燃え上がった関係が次第に冷め、恋の秋がやってきたと嘆く女性。一年間だけと決めた不倫の恋。女優の卵を好きになった高校時代の届かない恋。学生時代はモテた女性の後悔。何も始まらないまま終わった恋。バーカウンターで語られる、切なさ溢れる恋物語。
20代女性 この本はバーテンダーの方が書いていて、バーにやって来たひとりひとりのお客さんにフォーカスしたものとなっています。そのバーにやってきた人のさまざまな人生を覗いているような感覚になりますし、読み手側もこの中の一人とは価値観が合ったり、気持ちに共感できるのではないかと思います。
また、ここがはジャズバーなので、エピソードにちなんだ曲を知ることができます。活字の世界に触れながら、自分でジャズを調べて聞くこともできて、さまざまな方法で楽しめます。
風の万里 黎明の空(小野不由美)
人は、自分の悲しみのために涙する。陽子は、慶国の玉座に就きながらも役割を果たせず、女王ゆえ信頼を得られぬ己に苦悩していた。祥瓊(しょうけい)は、芳国(ほうこく)国王である父が簒奪者(さんだつしゃ)に殺され、平穏な暮らしを失くし哭(な)いていた。そして鈴は、蓬莱(ほうらい)から辿り着いた才国(さいこく)で、苦行を強いられ泣いていた。それぞれの苦難(くるしみ)を負う少女たちは、葛藤と嫉妬と羨望を抱きながらも幸福(しあわせ)を信じて歩き出すのだが…。
30代女性 名作の呼び声高い「十二国記シリーズ」のうちのひとつです。他のエピソードも最高なのですが、三人の少女を主軸とした物語は読み進めれば読み進めるほど、そして何度も読むほどに胸に迫るシーンや言葉が多く出てきます。読むタイミング、年齢によっても また全然違った印象を受けるのではないでしょうか。
本シリーズは、確かに世界観はファンタジーなのですが、「ファンタジー」と呼ぶのがあまりにもそぐわないほど、そこに生きる人々はこの上なく「リアル」です。一人一人が「己という領土を治める王」たれること、その大切さと、そこに至るまでの様々な出会い、別れに自身を重ねる人は少なくないはずです。壮大な物語であると同時に、「哲学書」と呼んでも良いのではないか、と感じています。
ゾウの時間ネズミの時間 サイズの生物学 (本川達雄)
動物のサイズが違うと機敏さが違い、寿命が違い、総じて時間の流れる速さが違ってくる。行動圏も生息密度も、サイズと一定の関係がある。ところが一生の間に心臓が打つ総数や体重あたりの総エネルギー使用量は、サイズによらず同じなのである。本書はサイズからの発想によって動物のデザインを発見し、その動物のよって立つ論理を人間に理解可能なものにする新しい生物学入門書であり、かつ人類の将来に貴重なヒントを提供する。
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20代女性 生物学について、動物のサイズの視点から読み解く本となっています。科学系の本ではありますが難しいところはなく、誰でも読みやすい文章です。私は本書が理科に興味を持つきっかけとなりました。
身近なイヌ・ネコなどからゾウやウニまで、生物の疑問から徐々に生物学の基礎へと繋げていくように、とても理解しやすい内容となっています。
生物の代謝や呼吸、臓器などとその生物自体のサイズを結びつけ、関連性を提示しています。サイズの視点から生物という謎に向かっていく、ユーモアのある一冊です。
とても読みやすく、身近な生物を扱った興味をそそる内容ですので、小学生からでも十分に楽しめるかと思います。科学の入門書としておすすめしたい作品です。
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胎児のはなし(増﨑英明/最相葉月)
経験していない人はいない。なのに、誰も知らない「赤ん坊になる前」のこと。超音波診断によって「胎児が見える」ように。新時代の産婦人科界を牽引した「先生」に、生徒サイショーが妊娠・出産の「そもそも」から衝撃の科学的発見、最新医療のことまで全てを訊く。全人類(?)必読の一冊。出産経験のある人も、ない人も、男性も読んで楽しくて、ためになる!
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20代女性 タイトル通り「胎児のはなし」を産婦人科医の増﨑英明先生とライターの最相葉月さんが対談形式でお話していく話になります。医学的な話がメインなのですが、対談形式のため小難しい医学用語なども増﨑先生が分かりやすく、噛み砕いて説明しつつお話が進められていくため読むのが苦ではありません。二人のお話を聞いていく感じなので、本の分厚さや内容で避けられる人もいるかもしれませんが、意外とスラスラと読むことができます。
胎児という未知のものについて知れるので、その分野に関して興味のある方はワクワクしながら読めると思います。妊娠、出産など非常にデリケートな話題を扱っていますので、出生前診断や中絶といったお話についても産婦人科医の増﨑先生の医師として、そして個人としての見解にも触れることができるので、自分だったらどういうふうにするのだろうと考えさせられることもありました。増﨑先生の胎児に対する愛情や興味関心がヒシヒシと伝わってくる本になります。
羊と鋼の森(宮下奈都)
第13回本屋大賞、第4回ブランチブックアワード大賞2015、第13回キノベス!2016 第1位……伝説の三冠を達成。
ゆるされている。世界と調和している。それがどんなに素晴らしいことか。言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。高校生の時、偶然ピアノ調律師の板鳥と出会って以来、調律の世界に魅せられた外村。ピアノを愛する姉妹や先輩、恩師との交流を通じて、成長していく青年の姿を、温かく静謐な筆致で綴った物語。
30代男性 ピアノの調律師の成長の物語。理想の音を現実に下ろして来る技術の世界の話であり、その技術を習得していく過程での迷い、ピアノを介した人との繋がりなどがつづられています。
調律は、演奏者の好みや会場の広さや床の材質など、様々な要素が絡み、わずかな差が演奏に大きな影響を与えます。そんな繊細な技術が求められる仕事に従事し、技術の深い世界に足を踏み入れていく事で、主人公はこれまでの出来事や日常のさまざまな出来事について、違った視点で物事を考えられるようになります。
一つの仕事に集中する事で、逆に世界の見方が広がっていき、一つの仕事に集中するからこそ生まれる人間関係もある。先輩調律師達の仕事観に触れる事で調律だけに留まらない、生き方そのものについての多様な世界も広がる。・・・今、自分が行なっている仕事について一度考え直したくなった一冊です。
静かな雨(宮下奈津)
行助は美味しいたいやき屋を一人で経営するこよみと出会い、親しくなる。ある朝こよみは交通事故の巻き添えになり、三ヵ月後意識を取り戻すと新しい記憶を留めておけなくなっていた。忘れても忘れても、二人の中には何かが育ち、二つの世界は少しずつ重なりゆく。文學界新人賞佳作に選ばれた瑞々しいデビュー作。
60代男性 普通、恋愛小説といえば、なんらかの障害が設けられています。もし障害がなければ、ふたりがラブラブで世界はふたりだけのもの、というお話になってしまいます。ラブラブのふたりはそれで幸せかもしれませんが、読んでいるほうは退屈…だから普通はふたりの愛を邪魔する障害が設けられるのです。恋のライバルがいるとか、「ロミオとジュリエット」のように双方の親が犬猿の仲でふたりの交際を許さない…とか。
そしてこの「静かな雨」の障害に著者は「記憶障害」を持ってきています。女性(こよみ)は、昨日のことを覚えていられないのです。それでも男性(行助:ゆきすけ)は女性と同棲しますが、さびしく感じることいら立つこともあります。私は同じ男性として 行助はずいぶんと辛抱していると感じたものです。
それでも行助は最後にはありのままのこよみを受け入れて、幸せを感じるのです。読み終わったとき、胸のなかがなんとも温かくなって、わたしはついほろりと泣いてしまったのでした。
食堂かたつむり(小川糸)
おいしくて、いとおしい。同棲していた恋人にすべてを持ち去られ、恋と同時にあまりに多くのものを失った衝撃から、倫子はさらに声をも失う。山あいのふるさとに戻った倫子は、小さな食堂を始める。それは、一日一組のお客様だけをもてなす、決まったメニューのない食堂だった。
30代女性 一言で言うと、癒し系小説です。小川糸さんの作品は食事のシーンがとても多いですが、表現が優しかったり、情景が穏やかだったり、温度を感じるような文体なので感情が不必要に揺さぶられることなく、温かい気持ちになれます。かといって、マイナスの感情が描かれないのいうとそうではなく、多くの人が共感できるような鬱々した感情も丁寧に描かれています。
「食堂かたつむり」では主人公が抱える緊張感が、お話と共に解けていく感覚が自分のことのように感じられて、世界観が身近に感じられる作品のように感じます。コロナ禍で鬱屈した感情を抱えてる方、人付き合いやデジタルに疲れてしまっている方には、とても響く作品だと思います。
ライオンのおやつ(小川糸)
人生の最後に食べたいおやつは何ですか――若くして余命を告げられた主人公の雫は、瀬戸内の島のホスピスで残りの日々を過ごすことを決め、穏やかな景色のなか、本当にしたかったことを考える。ホスピスでは、毎週日曜日、入居者がリクエストできる「おやつの時間」があるのだが、雫はなかなか選べずにいた。――食べて、生きて、この世から旅立つ。すべての人にいつか訪れることをあたたかく描き出す、今が愛おしくなる物語。
20代女性 様々な感情の表現方法がとても豊かで、すっと登場人物の感情を感じ取ることができます。今まで読んだ小説の中でも、こんなに自分の感情に無理なく入ってくる表現は初めてでした。
癌の女性が主人公なのですが、彼女が感じたり見たりする世界は 自分がいる世界と同じ世界なのにとても輝いていて儚いものに見えるので、日常生活の中に垣間見る素晴らしさに気づくことができ、終始涙が止まりませんでした。
自分自身疲れている時にこの小説を母からプレゼントしてもらったのですが、読み終えた後は少し寂しく悲しい感情とともに心がスッキリする、自分がポジティブな気持ちにもなる不思議な感情になりました。大切な人などにプレゼントするにはぴったりだと思いますし、何度も読み返したくなる小説です。
夜は短し歩けよ乙女(森見登美彦)
「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。けれど先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する“偶然の出逢い”にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。そんな2人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者たちと珍事件の数々だった。山本周五郎賞を受賞し、本屋大賞2位にも選ばれた、キュートでポップな恋愛ファンタジーの傑作!
20代女性 森見作品の中でも代表作と呼べるこの作品。舞台化や映像化なども多数あり、アニメーション映画では主人公「先輩」役に星野源さんが出演しており、当時はかなり話題となりました。
主人公の「先輩」と後輩の「黒髪の乙女」の恋模様を、2人の視点から交互に描く作品です。京都を舞台にした大学生の話であり、現実的ながらも、時に不可思議な出来事が発生します。古典文学等からの引用を伺える言い回しや表現もあり、文学に詳しければ詳しいほど楽しめる作品です。
思いもよらない場面が、思いもよらない伏線になっているので、何回も読み返したくなってしまいます。
“オモチロイ”登場人物たちの“オモチロイ”出来事にニヤニヤしながら、読み終えた後のなんとも言えない「青春」をぜひ楽しんで欲しい一冊です。
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有頂天家族(森見登美彦)
「面白きことは良きことなり!」が口癖の矢三郎は、狸の名門・下鴨家の三男。宿敵・夷川家が幅を利かせる京都の街を、一族の誇りをかけて、兄弟たちと駆け廻る。が、家族はみんなへなちょこで、ライバル狸は底意地悪く、矢三郎が慕う天狗は落ちぶれて人間の美女にうつつをぬかす。世紀の大騒動を、ふわふわの愛で包む、傑作・毛玉ファンタジー。
40代女性 京都を舞台に狸の親子、天狗、人間の三者が織りなす物語。狸が人間に変化して、人に紛れて生きているという発想が面白く、引き込まれます。
次男狸である主人公の目を通して話が展開していきます。四人兄弟の狸やその母親、お師匠様の天狗とその妖艶な弟子、彼らと対立する狸の兄弟など、登場人物それぞれのキャラクターが明確・爽快で、内容がコミカルなため読んでいて精神的に癒されます。
文中に何度も登場する、この小説のテーマともいえる「阿呆の血のしからしむるところだ」 (アホの血が流れてるから仕方がない)という言葉は、どんな難問にぶちあたったとしても、人間もこんなふう(狸のように)に飄々と生きていければよいのに…という思いにさせてくれます。
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傲慢と善良(辻村深月)
婚約者・坂庭真実が忽然と姿を消した。その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合うことになる。生きていく痛みと苦しさ。その先にあるはずの幸せ──。2018年本屋大賞『かがみの孤城』の著者が贈る、圧倒的な”恋愛”小説。
「人を好きになるってなんなんだろう」「読み終わったあと、胸に迫るものがあった」「生きていく中でのあらゆる悩みに答えてくれるような物語」「この小説で時に自分を見失い、葛藤しながら、何かを選び取ろうとする真実と架と共に私たちもまた、地続きの自由へと一歩を踏み出すのだ」―鳥飼茜さん(漫画家)
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30代女性 一見ミステリーのようで恋愛小説でもありながら、人間の本質を描いているような内容で、どんどん引き込まれていきました。
前半と後半で展開がガラッと変わっていくのが面白いのですが、自分は進学や就職や恋愛や友達関係など今までの人生のあらゆる選択を一体どのようにしてきたのだろうかと改めて考えさせられるような内容でした。
主人公が婚約者の失踪をきっかけに改めて彼女の過去を知り、彼女が今までどうやって生きてきたのか考えながら自分自身とも向き合うようになっていきます。
それを読みながら私自身も今までの人生を振り返り 自分がしてきた選択は本当に自分自身の決断だったのか、多かれ少なかれ親との関係性が影響していた部分があったのではないかと思いました。
人生の選択において、何が正しくて何が間違っているかなど誰にも分からないし正解などないのかもしれません。しかし変なプライドを持ち続けて自分の気持ちに鈍感になってしまったり、本当の気持ちを誤魔化し続けていては 自分にとっての良い選択などできないのではないかと思わされました。
この本を読んで、自分に自信を持てないことが人生をネガティブな方向に導いてしまうと感じました。
育った環境や幼少期からの扱われ方により自己肯定感が低かったとしても、自分を必要としてくれる人や近くにいてくれる人を大切にすることで自己肯定感を高めることはできます。
親や環境のせいにするのではなく自分自身を認めて高めていくことが生きやすさに繋がると感じました。
朝が来る(辻村深月)
長く辛い不妊治療の末、自分たちの子を産めずに特別養子縁組という手段を選んだ夫婦。中学生で妊娠し、断腸の思いで子供を手放すことになった幼い母。それぞれの葛藤、人生を丹念に描いた、胸に迫る長編。第147回直木賞、第15回本屋大賞の受賞作家が到達した新境地。河瀨直美監督も推薦!このラストシーンはとてつもなく強いリアリティがある。
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30代女性 この作品は子どもが欲しくても授かれない、長い長い不妊治療をしても授かれなかった夫婦が子どもを特別養子縁組として男の子をもらう話です。主人公はかたい家庭から育ち、中学生の時にできた同級生の彼氏との間に子どもができます。それをなかったことにしたい家族、産んで育てたい本人、何も知らされない彼氏、あらゆる視点から物語が展開していき、最後には一つに繋がっていきます。
私には2人の未就学児の子供がいます。私は幸運なことに不妊治療をして2人の子供を授かりましたが、世の中には子供が欲しくても、治療をしても 授かれない人が沢山いるんだとあらためて思い知り、複雑な気持ちになりました。
家族とは何か、家族とはどんな存在か、十人十色でそれぞれ違います。「希望の光」が家族なのか、彼氏なのか、はたまた施設なのか、それぞれ幸せの形は違います。
子どもを産み育てることがどれだけ大変か、命懸けか、どんなに大切な存在か、子どもを産んでみてわかったこと、知ったこと、思ったことがたくさんあります。
実の子でも大変なのに、特別養子縁組した子どもを可愛がれるのか、子どもを産んだのに育てられないとはどういう気持ちか、本書からたくさんのことを考えさせられました。
この作品はどの世代の方にもおすすめですが、これから長い人生を歩んでいくだろう思春期の子どもにもおすすめしたいです。命とは何なのか、人とは何なのか、人生とは何なのか、自分の人生を考えさせられたすばらしい作品でした。
ツナグ(辻村深月)
死者は、残された生者のためにいるのだ。一度だけ、逝った人との再会を叶えてくれるとしたら、何を伝えますか。死者と生者の邂逅がもたらす奇跡。心に染み入る感動の連作長編小説。
40代女性 一生に一度だけ使者と再会させてくれるという「使者(ツナグ)」生きている人が、どんなときに死者に会いたいと願うのか、またそれに答える死者たちは何を伝えるために戻ってくるのか、死者からのメッセージを受け取ったあと、どういう気持ちになるのか。
誰もが思ったことのある「死者に会いたい」という気持ち。それを実現させてみた話になりますが、それがどういう結果を生んでいくのか、突然死したアイドルに会いたいOL、母親に癌告知できなかった息子、親友に嫉妬心を抱いたまま別れてしまった女子高生、失踪した婚約者を待ち続けた会社員。誰もが複雑な気持ちを抱えたまま、人生に一度きりの夜を過ごします。それぞれの人生とそれぞれの思い、たった一夜の時間。その時間が終わったとき、どう感じるか是非体感してほしいです。
20代男性 死んだ人ともう一回会えるなら。死者と生者の仲介人「ツナグ」を探し出したたくさんの現代に生きる生者が生きているうちにもう一度死者と会えるなら誰と会いたいか。複数の人物のストーリーから生まれる物語。
普通はそれは既に亡くなった親とか大切な人だったりするのでしょう。死ぬ前に言えなかったこと、伝えたかったことをここで伝えたい。ただ一つだけ言えることは、会ったからこそ辛い現実を知る、知らなくてもよかったことを知ることにもなる…ということ。
「墓場まで持っていく」という言い回しがよくあるように、それを掘り起こすのはどうなのか。命の在り方、死んだ人と会えるとしたら誰に会いたいか、伝えられなかったことを伝えるべきなのか…と色々考えさせられる小説です。
アムリタ 上・下(吉本ばなな)
甘い笑顔を持つ美しい妹が心を病み、死んだ。姉の私は頭を打ち28年間の記憶を失ってしまう。さらに弟が未来の一部を予知できるようになって…。“半分死んだ”ようになった私と“チャネリング小僧”になった弟は、高知やサイパンへの旅の中で、生命の輝きを取り戻していく。無力感にとらわれ、心が闇に近づく時、支えてくれる日常の確かな手触りと輝きを描ききった。人類を救う永遠の傑作。
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40代女性 主人公朔美の妹の突然の死、妹の元恋人との恋愛、朔美の記憶喪失、突然霊感のようなものが芽生えてしまい苦しむ弟。
読んでいるうちに、簡単には経験しないであろう状況を抱えながら、日常を送っていく主人公達にシンクロし、当たり前に思っていた日常の大切さに気付かされていきます。
この小説はそれぞれの心の葛藤や癒されていく過程などが丁寧に描かれています。また、人生をたくましく生き抜いていくためのヒントにもなるため、個人的な話になりますが 深い悩みを抱えている時に読むと参考になる部分が多く、個人的には今でもバイブルだと思っている一冊です。
さらに、朔美と弟が旅に出るシーンが出てくるのですが、旅先の景色の描写が素晴らしく、読みながらこちらも一緒に旅をしている気分になれるところがすごいです。外出がしづらい現代にはぴったりです。
吉本ばななさんの小説は 長編であってもすぐにストーリーに引き込まれるために長く感じることなく、その上分かり易くて読みやすいので、とにかく日常に疲れてしまっている人達におすすめしたいです。
チョコレートコスモス(恩田陸)
無名劇団に現れた一人の少女。天性の勘で役を演じる飛鳥の才能は周囲を圧倒する。いっぽう若き女優響子は、とある舞台への出演を切望していた。開催された奇妙なオーディション、二つの才能がぶつかりあう!
20代女性 演劇という世界を、垣間見られる作品。心理描写が細かく、登場人物達の焦りや不安などが手に取るように分かります。演劇の世界とはどういった世界なのか。その疑問に、この作品はこたえてくれます。
舞台に立つ俳優はスポットライトに照らされ輝いて見えますが、それだけではないことを強く実感させられる作品です。演劇の世界に少しだけ携わったことのある身として、読後に抱いた感想は「どこか独特な演劇の世界や演劇に携わる人物を、文字だけで的確に表現しているのはすごい!」でした。
演劇を知らない人も楽しむことの出来る作品ですが、演劇を知っているひとや興味のある人ならばもっと深く楽しむことの出来る作品です。この作品を読んだ後は、演劇って面白い存在なのだなと思うし、演劇を鑑賞したいという気持ちにさせられます。
ネバーランド(恩田陸)
舞台は、伝統ある男子校の寮「松籟館」冬休みを迎え多くが帰省していく中、事情を抱えた4人の少年が居残りを決めた。ひとけのない古い寮で、4人だけの自由で孤独な休暇がはじまる。そしてイブの晩の「告白」ゲームをきっかけに起きる事件。日を追うごとに深まる「謎」。やがて、それぞれが隠していた「秘密」が明らかになってゆく。驚きと感動に満ちた7日間を描く青春グラフィティ。
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40代女性 恩田陸さんの本はさまざまなジャンルはありますが、中でも学園ものは、その時代の自分でなくてもどこか甘酸っぱく衝撃もあり、どんどん引き込まれていきます。
この「ネバーランド」は高校の伝統ある男子寮が舞台となった作品で 登場人物は4人の男子校生。どこにでもいるような男の子たちの話ですが、そこに色んなドラマがあります。
冬の休暇にそれぞれの都合で家に帰らず寮で過ごすことになった4人が「告白」という形から、それぞれの心の中や環境が明らかになっていきます。
思春期という大人になる前の 気持ちも体も複雑な時期、見た目は笑っていてもどこか影があったり、心の内に秘めたものを持っていたり。それは男女問わず 誰もが通りすぎる時間です。
大人が読めばこんな時もあったなと懐かしく、学生が読めば悩んだり傷ついたりみんな一緒なんだと、読み終わった後にどこか安堵する作品です。
小さな描写も素敵な作品で、私はこの4人の中で誰と1番似ているだろう…と 自分を重ねて読み進めるのも面白いです。
植物図鑑(有川浩)
お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか。噛みません。躾のできた良い子です。思わず拾ってしまったイケメンは、家事万能のスーパー家政夫のうえ、重度の植物オタクだった。樹という名前しか知らされぬまま、週末ごとにご近所を「狩り」する、風変わりな同棲生活が始まった。とびきり美味しい(ちょっぴりほろ苦)“道草”恋愛小説。レシピ付き。
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20代女性 この本は映画化もされている「ザ・少女漫画なラブストーリー」です。
私は元々少女漫画が好きなのですが、主人公と男の子の出会いが「拾ってください」というのはあまりにも少女漫画という感じで笑ってしまいました。
本書には「植物図鑑」の名の通り たくさんの植物が登場します。特に野草が多く、季節の野草たちを摘んでは2人で料理していくのですが、その料理がとても美味しそうなのです。
自然素材で素朴な味付けで作られていく料理は、読んでいて「私も野草を摘んで料理したい!」と思わされました。文庫版には植物の写真とレシピも載っています。
最後はハッピーエンドですが、それがもう本当に「2人とも、ずっとしあわせでいて」と願わずにはいられないようなエンドなので、ドキドキしたい人、平和な生活や料理描写を楽しみたい人におすすめです。
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服を買うなら捨てなさい(地曳いく子)
大人世代に絶大な支持を誇る、人気スタイリスト地曳いく子が、今すぐ捨てるべき服、明日から買うべき服の基準を、わかりやすく指南します。これ一冊で、大人のおしゃれの断捨離は完璧!不要な服を減らして、お気に入りだけにすれば、着ている自分がアガる。しかも似合っていて、人に「素敵!」と褒められる服ばかりの、少数精鋭のワードローブのつくり方、教えます。
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40代女性 断捨離の本はたくさんありますが、タイトルがわかりやすかったので思わず手に取りました。
プチプラや着回しコーデといった言葉が巷で幅を利かせる中、着回しなんてしなくていい!と言い切った本です。しかもそれが収納アドバイザーや片付けの専門家ではなくファッションに精通するスタイリストの言葉とあっては、いっきに信頼性も増すというものです。
手持ちの服は似合うものだけ、毎日同じコーディネートでいい、むしろ似合っているのだからそのほうがいい、トップスは何着あればいい、ボトムは、アウターは…と、大変わかりやすいです。
本の内容を自分なりに消化し、1着買ったら1着以上処分する、というのを実践し始めてからは ずいぶんと箪笥の中がすっきりしました。また、気に入った服ばかりを着続けることに抵抗がありましたが、今気に入ってるのはコレなんだから、着られるうちは着続けよう!と思うようになりました。
どのみち、ちょっと高いものを買っておっかなびっくり着ても、傷む時は傷みます。だったらワンシーズンであっても思いっきり着たほうが満足感もあり、買った甲斐もあるというものです。
また、この本は書籍として字の大きさも程よく、サクサクと読み進めていけます。オシャレ迷子の方、着ていない洋服に埋もれている方、毎日何を着ていこうか悩む方(考えるのが楽しい方は別として)にぜひ一度読んでいただきたい1冊です。
コンビニ人間(村田沙耶香)
「普通」とは何か?現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作。36歳未婚、彼氏なし。コンビニのバイト歴18年目の古倉恵子。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる。「いらっしゃいませー!!」お客様がたてる音に負けじと、今日も声を張り上げる。ある日、婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は恥ずかしい、と突きつけられるが…。累計92万部突破&20カ国語に翻訳決定。世界各国でベストセラーの話題の書。
20代女性 コンビニでアルバイトをしている女性の物語です。幼少期に少し変わった子として見られるようになった主人公は 自分を出すことをやめて生活していました。大学生の頃、迷い込んだオフィス街でコンビニのオープニングスタッフの募集を見て興味本位で応募しました。
コンビニでは研修があり、表情や挨拶を習い「普通の表情と声の出し方」を知ることができました。それから主人公はコンビニ人間として生まれ、生活していく話です。恋愛をしたことのない主人公が新人バイトとして入ってきた男性と同居しはじめて、周りの反応が変わってきます。
一般的な普通の暮らしや普通の生活をしていない主人公を、周りの人間たちがどのように扱うのか、そこが見所です。文の中では音や物などの描写が魅力的です。
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おもかげ(浅田次郎)
涙なくして読めない最終章。人生という奇跡を描く著者の新たな代表作。孤独の中で育ち、温かな家庭を築き、定年の日の帰りに地下鉄で倒れた男。切なすぎる愛と奇跡の物語。エリート会社員として定年まで勤め上げた竹脇は、送別会の帰りに地下鉄で倒れ意識を失う。家族や友が次々に見舞いに訪れる中、竹脇の心は外へとさまよい出し、忘れていたさまざまな記憶が呼び起こされる。孤独な幼少期、幼くして亡くした息子、そして…。涙なくして読めない至高の最終章。著者会心の傑作。時代を超えて胸を打つ不朽の名作『地下鉄(メトロ)に乗って』から25年―浅田次郎の新たな代表作、待望の文庫化。
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50代女性 「エリート」と呼ばれる人の人生は、果たして成功に充ち溢れているのだろうか。私たちは「エリート」と分類される人たちのことをうらやましく思ったりすることも多々あると思います。立派な大学を出て、大手企業に勤めて、不自由のない生活を送ることができ、全ての幸せを手にしているのだと錯覚します。
この『おもかげ』の作品では、ある1人の定年まで仕事を終えたエリート会社員の「エリート」の背景にある生い立ちから、思いがけない境遇が描かれ、主人公の身に寄りかかる数々の「おもかげ」を通して主人公の心情が揺れ動く瞬間に、この作品の読み応え感じることができました。
主人公が定年まで勤めあげ、送別会の帰りに意識を失ってから心のみが外へとさまよいだし、妻や娘、娘婿、また同期の同僚や古くからの幼馴染との思い出やそれぞれの心情を目の当たりにして新たに気づくことが多々ある。人は死を迎えるときの走馬灯で自身の人生の振り返りを行い、一生を清算するのだと思いました。
「エリート」と呼ばれた主人公にも人には想像もできない過去や経験がありましたが、人生を振り返る中でひとつひとつ清算を行い、一生の終焉を迎えたときに全てを知ることができました。文中にいくつもの伏線があり、それを最後の最後で一気に回収していく感じが、読んでいて脳が震えました。
この作品を読んで、今までは「死」について考えることは怖いことで悲しいことだと考えていたのですが、一概にそうとは言えないとも思ったのです。なぜなら 人生は「死」の寸前まで新たな発見や感動があると感じられたから。
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ドキュメント(湊かなえ)
人と人。対面でのコミュニケーションがむずかしくなった今だからこそ、「”伝える”って何だ?」ということを、青海学院放送部のみんなと、真剣に考えてみました。 ―湊かなえ
中学時代に陸上で全国大会を目指していた町田圭祐は、交通事故に遭い高校では放送部に入ることに。圭祐を誘った正也、久米さんたちと放送コンテストのラジオドラマ部門で全国大会準決勝まで進むも、惜しくも決勝には行けなかった。三年生引退後、圭祐らは新たにテレビドキュメント部門の題材としてドローンを駆使して陸上部を撮影していく。やがて映像の中に、煙草を持って陸上部の部室から出てくる同級生の良太の姿が発見された。圭祐が真実を探っていくと、計画を企てた意外な人物が明らかになって……。
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30代女性 これは「ブロードキャスト」の後編となる本なので、そちらを是非先にお読みください。「ブロードキャスト」そして今作「ドキュメント」は高校生による、青春の群像劇です。
もちろん劇中キャラクターと同年代の子供たちも楽しく読めるはずですが、大人になってから読むと子供たちとは別の視点で楽しめるはずです。
私も学生の時に打ち込んだ部活と挫折してしまった部活があり(私の場合 後者は自分の忍耐力が原因ですが)主人公が過去にいた部活と今いる部活への心の揺れなど想像しやすい部分もありました。
本当に高校生か…!?なんて思ってしまうくらい冷静で大人な考え方をする主人公と周囲のキャラクターたちですが、実は子供たちが漠然と、無意識に考えていることを言語化したら このくらいしっかり考えているのかな、とも思いました。
だとすると、親や祖父母の立場になった時にあれこれ1から10まで注意して教えてあげて先回りして、というスタイルは愚行なのかもしれないと感じました。
彼らはこんなに考えて葛藤して、なんとか前に進もうとする。手助けこそすれ、導いてあげるものではなさそうだなという感想は、もしかしたらこの本の論点からはずれているのかもしれませんが、おばさんになった自分はそう感じます。
陸上部と放送部が舞台ですが、私は陸上部ではなかったので「そうなんだ」という感想になってしまうのですが、元陸上部・元放送部の方が読んだらさらに違う感想が生まれそうです。
ののはな通信(三浦しをん)
最高に甘美で残酷な女子大河小説の最高峰。ののとはな。横浜の高校に通う2人の少女は、性格が正反対の親友同士。しかし、ののははなに友達以上の気持ちを抱いていた。幼い恋から始まる物語は、やがて大人となった2人の人生へと繋がって…。
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40代女性 同じ女学校に通うクールなののと天真爛漫なお嬢様のはなが手紙を通じて心を通わせていきます。
次第に2人の関係と気持ちは友情から恋情へと変わっていき、結ばれますが、同性同士であるということや環境や本質的な考え方、感じ方の違い、さらに思春期特有の気持ちの不安定さからののははなを裏切る行為をしてしまい、それが原因で2人は別れてしまいます。
時を経て20代の頃2人は再会し、また再び交流を持ちますが、さらにお互いの溝を深めるような別れ方をしてしまいます。そしてまた再び40代になって、今度は直接会うことなく、メールという形で連絡を取るようになります。
全く別の道を歩いている2人ですが、それぞれお互いにとって相手が唯一無二の存在であることを確認していきます。
私は同性愛者ではないですが、主人公達のように、唯一無二といえる親友がいます。単純に友情だけではなく、他の人では代わりにならない存在だからこそ 許せないこと、執着してしまうことがあります。そしてそれを超えてより通じ合い繋がっていく関係というものですから、他の人では代わりになりません。
この物語を読んで、2人の関係に感銘を受けたと同時に、はなの成長に強く感動しました。常に受け身でおっとりしたお嬢様だったはなが、最終的に自分で決めた大きな決意を決行します。自分の人生を生きるということの大切さを再確認できました。
性別を問わず大切な存在について深く考えるきっかけになったと同時に、人に頼らず自分が本当にしたいこと、しないといけないことを探していかないといけないなと思いました。
森に眠る魚(角田光代)
東京の文教地区の町で出会った5人の母親。育児を通して心をかよわせるが、いつしかその関係性は変容していた。あの人たちと離れればいい。なぜ私を置いてゆくの。そうだ、終わらせなきゃ。心の声は幾重にもせめぎ合い、それぞれが追いつめられてゆく。凄みある筆致で描きだした、現代に生きる母親たちの深い孤独と痛み。渾身の長編母子小説。
引用元:amazon
30代女性 子持ちの女性同士の人間関係を描いた小説です。バックグラウンドや性格・年代の異なる女性たちが「母親」という共通点で知り合い、仲良くなっていきますが、子どもの受験やお互いの生活環境の違い・価値観の違い等から段々とすれ違っていく様子が描かれています。
感情描写がリアルで読み始めたら最後まで一気に読んでしまいました。子育て世代・子育てを経験したことがある女性は特に共感できる内容だと思います。
物語の序盤では子育てに悩む女性たちがお互いに心を通わせていくほのぼのとした雰囲気を楽しめますが、物語が進むにつれてなんとも不穏な雰囲気に包まれていきます。ささいなことからママ友に対して違和感を感じている描写がリアルでした。
例えば子どもを預かってもらった時に家では与えていないスナック菓子を与えられていたり、夕飯時に突然家を訪問されたりする場面があります。実際のママ友付き合いでも自分では非常識と感じることが相手にとっては非常識ではないと受け取られていたりしますが、ちょっとした出来事の積み重ねで徐々に相手に違和感を感じていく様子が大変丁寧に描かれています。
複数で仲良くしているママ友の中でも特定の二人の仲が良かったり、AさんはBさんと一番仲良くなりたいと思っているのにBさんはCさんと一番仲良くなりたいと思っているなど、実際のママ友関係にありがちな悩みも登場します。
この作品を読んでママ友関係の中にいる女性たちの息苦しさを実体験しているような気持ちにさせられました。
八日目の蝉(角田光代)
直木賞作家・角田光代が全力を注いで書き上げた、心ゆさぶる傑作長編。不倫相手の赤ん坊を誘拐し、東京から名古屋、小豆島へ、女たちにかくまわれながら逃亡生活を送る希和子と、その娘として育てられた薫。偽りの母子の逃亡生活に光はさすのか、そして、薫のその後は―!? 極限の母性を描く、ノンストップ・サスペンス。第2回中央公論文芸賞受賞作。
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40代女性 角田光代作品が大好きで、自宅に何十冊も所持してします。旅のエッセイやお料理のエッセイなど良い本が沢山あり、ひとつに絞るのが難しいのですが、やはりドラマや映画化されたほどの話題作なので、八日目の蝉をおすすめします。
自分に子供が産まれた今読み返すと、犯罪を犯しているものの、親子として接していた数年間の優しい時間の流れや、小豆島での最後の瞬間が本当に切なく、情景が頭に浮かび涙が出てきます。
第一章と第二章で親子2人の目線で読み進められるので、どちらの心にも寄り添えて、リアルな感じが増します。
角田先生の描いた小豆島に魅せられて、一昨年フェリーで旅をしました。美しい瀬戸内海と素麺を見て、また本書を読み返したいなぁと思いました。
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小さき者へ(重松清)
お父さんが初めてビートルズを聴いたのは、今のおまえと同じ歳――十四歳、中学二年生の時だった。いつも爪を噛み、顔はにきびだらけで、わかったふりをするおとなが許せなかった。どうしてそれを忘れていたのだろう。お父さんがやるべきこと、やってはならないことの答えは、こんなに身近にあったのに…心を閉ざした息子に語りかける表題作ほか「家族」と「父親」を問う全六篇。
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30代女性 家族小説です。他人事ではない現実的な内容になっています。もしも我が家だったらと考えさせられました。
家庭内暴力の息子に当てた父からの手紙はじーんと心に響くものです。子供の頃の自分を思い出しながら子供に接していく形が多い内容です。子育てを経験したことのある方がとても共感できるのではないかと思います。
親も子供の頃があって、子供の親になった今も子供の部分はあって、子供のように間違えたり、失敗もするし、恥ずかしいこともあるし、言いたいことも言えないこともある。完璧な人間ではない部分を子供に知ってもらって子供と成長すればいいんだと思えました。
親の気持ちでも読める小説でもあり、子供の気持ちでも読める小説です。親子で読んだら感想の交換をすると面白いかもしれません。
私は両親のことを思い出しました。私が反抗期の時こんな対応してくれたなとか、こんな気持ちだったのかなと考えながら読んでいました。大人になって子供を持ちもう一度読むとまた違った角度からこの本を読んでいました。
読む時期、年代によって感じ方が異なる小説です。終わりはどれもゆるく、しっかり締め括らず、でもきっとハッピーエンドなんだろうなと終われる話ばかりです。
祈りのカルテ(知念実希人)
諏訪野良太(すわのりょうた)は、純正会医科大学附属病院の研修医。初期臨床研修で、内科、外科、小児科など、様々な科を回っている。ある夜、睡眠薬を大量にのんだ女性が救急搬送されてきた。その腕には、別れた夫の名前が火傷(やけど)で刻まれていた。離婚して以来、睡眠薬の過剰摂取を繰り返しているというが、良太は女性の態度と行動に違和感を覚える。彼女はなぜか、毎月5日に退院できるよう入院していたのだ(「彼女が瞳を閉じる理由」)初期の胃がんの内視鏡手術を拒否する老人や、循環器内科に入院した我が儘な女優など、驚くほど個性に満ちた5人の患者たちの謎を、新米医師、良太はどう解き明かすのか。「彼」は、人の心を聴ける医師。こころ震える連作医療ミステリ。
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50代女性 研修医の諏訪野先生が研修で回りながら、それぞれの科で様々な患者さんと関わっていく5つの短編小説です。各科で待ち受けるなぞに全力で立ち向かい解き明かしていく、ミステリープラス心温まるヒューマン的な要素も沢山入った読みやすく面白い小説でした。
彼の相手に向き合う一生懸命さ・ひたむきさには感動し、応援し、拍手を送りつつも、諏訪野先生があまりにも、最初から一人一人に全力で接しすぎている姿を見て「この先この調子で自分自身は大丈夫なんだろうか?」といらぬ心配をしてしまう親心が出てしまいました。
「もし精神科医になったら5年以内に治療を受ける側になるから精神科医には向いていない」…と言った立石先生は、彼をしっかり見抜いての言葉だったんだろうなと思いました。
明るくて、情熱をもって、一人一人の声を聞いて、気持ちに寄り添える。諏訪野先生のような医者がいたら、患者さんはどんなに救われることでしょう。実際の現場では、なかなか無理なことなのかなと思いながらも、一人でもこのような医者が育ってくれることを願わずにはいられないです。
医者の日常や、医療現場を垣間見られる小説でもありました。彼はどこに行ってもまっすぐに向かい合って最善を尽くすという一貫した態度からどの科でも評判が良かったけれど、最終的に彼がどの科を選ぶのだろうかと、最後は少しドキドキしながら読みました。
研修医から、正式な医者になった諏訪野先生の物語も、読んでみたい気持ちがしています。
百花(川村元気)
「あなたは誰?」徐々に息子の泉を忘れていく母と、母との思い出を蘇らせていく泉。ふたりで生きてきた親子には、忘れることのできない“事件”があった。泉は思い出す。かつて「母を一度、失った」ことを。母の記憶が消えゆく中、泉は封印された過去に手を伸ばす。記憶という謎<ミステリー>に挑む新たな傑作の誕生。「あなたはきっと忘れるわ。だけどそれでいいと私は思う」「また母が、遠くに行ってしまいそうな気がした。あの時のように」…あの一年間のことは、決して誰にも知られてはいけなかった。
20代女性 息子と母の物語です。美しくしっかり者だった母が認知症になり、少しずついろんなことを忘れていきます。しだいに息子のことも忘れていく母を見て息子はいろんな想いがあふれていきます。母と息子2人で二人三脚で歩んできた思い出を息子は振り返り、母の病に戸惑いながらも歩んでいきます。
一方母は思い出の中の住人となり、だんだん現実の息子を認識できなくなる姿が悲しいものです。母の中にはしっかりと幼い息子が宝物としてあるのに、現実に目の前にいて触れることができる息子のことは分からなくなっていくというリアルな残酷さがありました。母と息子のことだけではなく、息子を取り巻く会社の話や結婚の話、子どものことなど自分の人生にも重なるものがある作品でした。
そして、バトンは渡された(瀬尾まいこ)
幼い頃に母親を亡くし、父とも海外赴任を機に別れ、継母を選んだ優子。その後も大人の都合に振り回され、高校生の今は二十歳しか離れていない“父”と暮らす。血の繋がらない親の間をリレーされながらも、出逢う家族皆に愛情をいっぱい注がれてきた彼女自身が伴侶を持つとき―。大絶賛の2019年本屋大賞受賞作。
30代女性 女子高生とその家族の何気ない日常を描いたストーリーですが、淡々とした内容を読み進めていくと、穏やかなストーリーの最後に伏線として描かれていた母親についての真相が解明され、大きな感動があります。
映画化されていて、スクリーンで見たときとはまた異なったストーリーの見え方があり、どちらも楽しむことでより深く世界観を味わうことができる作品です。映画では旬な役者の方々が演じていて、小説で読んでいる時とはまた違った人物像に感じられることもありますが、映画の雰囲気は小説の世界観をよく表現していると思います。
読了後には、家族関係とは何かを考えるきっかけを与えてくれ、暖かい気持ちになることができる作品です。
沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う(山舩晃太郎)
恋人や家族が戯れる海の底で沈没船を探すロマンチスト。それが水中考古学者だ。今日は地中海、明日はドブ川。激アツの発掘デイズ。英語力ゼロなのに単身渡米、ハンバーガーすら注文できず心が折れた青年が、10年かけて憧れの水中考古学者に。その日常は驚きと発見の連続だった! 指先さえ見えない視界不良のドブ川でレア古代船を掘り出し、カリブ海で正体不明の海賊船を追い、エーゲ海で命を危険にさらす。まだ見ぬ船を追うエキサイティングな発掘記。
40代女性 沈没船博士、山舩晃太郎さんによる水中考古学入門本ですが、これがとても面白い!水中考古学とは昔からある分野だそうですが、自分はまったく知らなかったのでとても興味深い内容でした。
現在の日本では学べないジャンルのようで、いきなり海外に行ってしまう山舩さんの情熱と行動力にも驚かされます。具体的な発掘のやり方や発掘チームの人間模様までとても濃い内容です。
水中考古学に興味があり手に取った一冊ですが、むしろこのジャンルに興味のない人にこそお薦めしたいと思います。自分の知らなかった世界の裏側が覗ける機会はそうそうありません。大人はもちろんですが、ぜひ自分のやりたいことを模索している若い世代の人たちに読んでほしい1冊です。
蜜蜂と遠雷(恩田陸)
近年その覇者が音楽界の寵児となる芳ヶ江国際ピアノコンクール。 自宅に楽器を持たない少年・風間塵16歳。 かつて天才少女としてデビューしながら突然の母の死以来、弾けなくなった栄伝亜夜20歳。 楽器店勤務のサラリーマン・高島明石28歳。 完璧な技術と音楽性の優勝候補マサル19歳。 天才たちによる、競争という名の自らとの闘い。その火蓋が切られた。
30代女性 ピアノコンクールという華やかな舞台で巻き起こる天才たちの戦い。それだけ聞くと、どこかで見たような、ちんけな物語を想像するかもしれませんが、本作においてその心配は無用です。
母の死により舞台を離れた過去の天才・亜夜、誰もが認めるスーパースター・マサル、生活者の音楽を模索する秀才・明石、そして突如として現れたギフト・塵。四人が織りなす物語は、瑞々しくも深く洞察された音楽描写によって色彩豊かに紡がれていきます。
恩田陸というと独特の世界観が取っつきにくい印象を与えることもしばしばであり、好みの分かれる作家という印象がありますが、本作の美しい音楽表現や丁寧に綴られた四人の成長の様子は、誰もが感動を覚える物語へと仕上がっています。
最後の一文を読み、本を閉じた後もピアノの音が鳴り響いているような素晴らしい体験を ぜひ読者に感じてもらいたいです。
よこまち余話(木内昇)
【各紙誌で話題を呼んだ哀しくも愛しい幻想譚、待望の文庫化! 】その人は、もういないかもしれない。もういなくても―確かにここにいた。お針子の齣江や向かいの老婆トメさんが、 いつ、どこから来て棲み始めたのか、長屋の誰も知らない。正体不明の男「雨降らし」が門口に立つとき、 そこには必ず不思議が起こる。少しずつ姿を変える日々の営みの中に、 ふと立ち上る誰かの面影。時を超え、降り積もる人々の思い。路地にあやかしの鈴が響き、 彼女はふたたび彼と出会う。「いつかの人々」が囁きかけてくる感動長篇。
20代女性 舞台は一昔前の日本のとある長屋。そこに住む人々の暮らしを描いた作品です。一人一人に焦点を当てた話の連なりで構成された短編形式なのですが、後半になるにつれて仕掛けが明らかになっていき、全ての話が繋がっていたことに気付かされます。そしてそれまで読んで過ぎ去った出来事全てに何か意味があったということを悟らされるのです。
ゆったりと穏やかな時間の流れの中に温かさと切なさを感じる文体で、中毒性すらあります。幻想的な世界観で、とにかく読後の余韻が他のどの小説よりも強く残りました。紙に印刷された文字だけでこれほど深みのある物語世界を生み出し、読者の心にこれほど重みのある、しかし心地の良い何かを残していくなんて、文学はなんと素晴らしいのだろうと改めて感じさせられる作品でした。
今夜誰のとなりで眠る(唯川恵)
その自由で奔放な生き方で女たちを魅了した男、高瀬秋生の突然の訃報。大学の同級生だった真以子と協子、秋生の友人と結婚した七恵、一緒に暮らしていた佑美、その職場の同僚じゅん子。ひとりの男の死が、彼と関わった5人の女たちの人生に、さざ波をたててゆく。30代半ば、もう若くはない、でもやり直せる。それぞれの事情を抱えながら生きてゆく女たちの、新しい旅立ちを描く長編小説。
30代女性 1人の秋生という男性の死をきっかけに5人の女性がそれぞれの恋愛に向き合う物語。私はその中でも真依子に共感しました。
相手にこう思われたいからこう言おうと考えてから発信してしまうのはもはや癖のようになっていて、本当の醜いところを見せたがらない。私も相手に理想的と思ってもらいたくて実際よりもすごく理解があるように演じる時があります。真衣子は結局杉田も猫も失ってしまい 醜いところも見せたけど最後は友人と新しい猫ができました。私も本当に大切な人の前では素直でありたいと思わされました。
他の4人の女性についてもそれぞれ共感できるポイントがあったり、あーこういう人いるなと笑ってしまったり。普段本を読まない方でもとても読みやすい作品です。
僕の人生には事件が起きない(岩井勇気)
日常に潜む違和感に芸人が狂気の牙をむく、ハライチ岩井の初エッセイ集!段ボール箱をカッターで一心不乱に切り刻んだかと思えば、組み立て式の棚は完成できぬまま放置。「食べログ」低評価店の惨状に驚愕しつつ、歯医者の予約はことごとく忘れ、野球場で予想外のアクシデントに遭遇する…。事件が起きないはずの「ありふれた人生」に何かが起こる。完売店続出、累計10万部突破のベストセラー! 自筆イラストも満載。
30代女性 想像を裏切ってくれる面白さでした。ハライチの”じゃない方”の芸人として、自分を卑下する笑いでもなく、誰かを貶める笑いでもなく、ただただ日常の中で見過ごされがちなクスッとした小話が詰まっています。
状況の切り取り方や解釈の仕方がとてもユニークで面白くて「さすが芸人さん!」と思うと同時に、自分も同じように、日々の些細な出来事とこんな風に面白おかしく向き合って、今以上に人生を楽しめるのでは…!と、希望になってくれる感じがします。
シュールな笑いなのですが、おそらく私たちの日常の「あるある」が詰まっている気がするので、割と万人にうける作品なんじゃないかと思います。あまりエッセイは読んでもしっくりこないタイプなのですが、この本だけはずっと大切にしたいと思えました。
失はれる物語(乙一)
事故で全身不随となり、触覚以外の感覚を失った私。ピアニストである妻は私の腕を鍵盤代わりに「演奏」を続ける。絶望の果てに私が下した選択とは?
20代女性 交通事故により全身不随となり、そのうえ五感のすべてを失った主人公に残るのは右腕の皮膚感覚のみ。それを知ったピアニストの妻は、その右腕を鍵盤に見立てたピアノの演奏によるコミュニケーションを図ろうと試みる。彼女が腕の上に広げていくそのリズムは、彼の人生にとって唯一の救いとなったが…。
五感を失った主人公の視点で物語が進むため、妻の気持ちの変化などは彼女の演奏の中にあるテンポやリズムの乱れにより伝わってきます。その繊細な表現に圧倒されました。
演奏の中で気づいてしまった妻の想い、それに対する主人公の決意など、お互いがお互いを大切に思っているのに もう二度と手を取り合って人生を歩むことが出来ない切なさが伝わってきました。また、五感を失ってしまった主人公の感じる時の流れの遅さやその閉鎖感、自分ではどうすることも出来ない苦しみがひしひしと伝わります。
人を想う温かい気持ちと苦しい気持ちの両方を味わうことの出来る作品です。
路上のX(桐野夏生)
一家離散によって幸せな生活を失った女子高生の真由。義父の虐待から逃れ、街で身を売るリオナ。二人は運命的に出会い、共に生きる決意をする。ネグレクト、DV、レイプ。最悪の暴力と格闘する少女たちの連帯と肉声を物語に結実させた傑作が、遂に文庫化。
40代女性 突然の一家離散により、親戚の家で暮らすことになった女子高生・真由。そこでは食べ物もろくに与えられずに厄介者扱いされ、ついに家を出る決意をするが…。夜の街で居場所を探す彼女に群がる大人たちの汚さが、これでもか!と克明に描かれ、また、貧困、機能不全家族によって多くの子供(特に女子)が直面するだろう深刻な問題がこの本には詰まっています。
特に嫌悪感を覚えたのは、貧困状態の少女を性的搾取しようとする人間の多さ。追い詰められた者をさらに追い詰めるという罪を微塵も感じない大人の男たちの醜悪さが、際立っています。
この本を書くにあたって、作者の桐野夏生氏は、JKビジネスのスカウトマンや女子高生好きの男性にも取材を敢行しており、その過程で「日本は女性への差別意識が強い」と感じたということです。是正されない賃金格差や、2017年版ジェンダーギャップ指数が、144か国中114位であることからもそれは明らかだと思います。
現在、コロナ禍において、主人公真由のような少女は、いったいどうしているのだろうかとふと思いました。本書を読んだことのある者ならば、それを考えずにはいられないはずです。
天国はまだ遠く(瀬尾まいこ)
仕事も人間関係もうまくいかず、毎日辛くて息が詰りそう。23歳の千鶴は、会社を辞めて死ぬつもりだった。辿り着いた山奥の民宿で、睡眠薬を飲むのだが、死に切れなかった。自殺を諦めた彼女は、民宿の田村さんの大雑把な優しさに癒されていく。大らかな村人や大自然に囲まれた充足した日々。だが、千鶴は気づいてしまう、自分の居場所がここにないことに。心にしみる清爽な旅立ちの物語。
30代女性 主人公の千鶴はどこにでもいるようなOLでしたが、ある日何もかも嫌になって自殺を決意します。タクシーに乗って、当て所もなく降り立った場所は田舎の村の小さな民宿。自分以外にお客さんもおらず、そこにいたのは民宿を営む主人である田村。
田村には悪いと思いながらも、千鶴は大量の睡眠薬を飲んで眠りにつくのです。しかし、結局死ぬことができず、彼女は自殺することを諦めてその村で今までの日々を忘れるかのように生活を始めますが…。
この小説は私が高校生の時に出会ったもので、今でもたまに読み返します。高校当時の私は千鶴の気持ちがいまいちわかりませんでしたが、小説の中の千鶴は次第に生き生きとしていくようになり「この人本当に自殺しようとした人なのかな?」と不思議に思うくらいに田舎暮らしを堪能します。
千鶴と田村のなんともない会話や 彼女がその田舎で毎日を送るごとに何かを感じ取っていく様は 心に響くものがありました。年を重ねるごとにこの物語を読むと、自分の感情がどんどんと千鶴の感情に追いついていき、共感できる場面も増えたし、私も明日から頑張ろうという気持ちにしてくれます。
本書はとても癒される本なので、ぜひいろんな人に読んでほしいです。
二つの祖国(山崎豊子)
昭和十六年十二月八日、日本海軍はハワイ・真珠湾に奇襲攻撃をかけ、太平洋戦争が始まった。まもなく、アメリカ市民として生きてきた十一万二千人の日系人は、「敵性外国人」として、有刺鉄線に囲まれた砂漠の強制収容所へと入れられる。さらなる差別渦の中で彼らは懊悩する。「自分はアメリカ人なのか、それとも日本人なのか?」と。ロサンゼルス、サンフランシスコ、マンザナール収容所、ミネソタ、ワシントン、ニューヨーク、ハワイ…、現場と日系二世を徹底取材。圧巻の大ベストセラー。
20代女性 アメリカで暮らす日系人が、第二次世界大戦勃発から終結、さらに東京裁判までに至る経緯の中での経験を描いた小説となっています。
戦争の恐ろしさはもちろん、それまで好んで暮らしていた国で、渦中におかれ自身と家族の身を守るために必死になる人物たちの様子が鮮明に描かれます。裏切りや妬み、恨みなどによって複雑に絡み合う人間関係もこの作品の魅力の一つです。
そして、タイトルの通り、「二つの祖国」が目の前で完全に二つに割れてしまった時に、なんとか自分のアイデンティティを追求し続けようと悪戦苦闘する人物たちの苦しい胸の内がひしひしと伝わってきました。
世界が分断されたことによって その割れ目にはまってしまった人々がどのような思いをするのか、みんなが愛国心を謳う中で彼らは何を追うべきなのか。とても深い内容ではありますが、今まで考えたことのないようなことや 知る由もなかったような事実を目の当たりにさせられるような小説だったと思います。
オルタネート(加藤シゲアキ)
高校生限定のマッチングアプリ「オルタネート」が必須となった現代。東京のとある高校を舞台に、若者たちの運命が、鮮やかに加速していく。全国配信の料理コンテストで巻き起こった〈悲劇〉の後遺症に思い悩む蓉(いるる)。母との軋轢により、〈絶対真実の愛〉を求め続ける「オルタネート」信奉者の凪津(なづ)。高校を中退し、〈亡霊の街〉から逃れるように、音楽家の集うシェアハウスへと潜り込んだ尚志(なおし)。恋とは、友情とは、家族とは。そして、人と“繋がる”とは何か。デジタルな世界と未分化な感情が織りなす物語の果てに、三人を待ち受ける未来とは一体。
20代女性 高校生限定のマッチングアプリ「オルタネート」を題材にした作品で、若者の恋愛観、運命が鮮やかに加速していく青春物語です。今どきのデジタルな世界を生きる若者の感情をリアルに描いている点や、自分の青春時代を想起させる表現があり、とても懐かしい感じになるのも好きなところです。
昨今、人との繋がりにSNSなどインターネットが関与してきて 人との繋がり方に大きな変化が見られます。それに伴って恋愛や家族愛にも変化が見られますが、その変化をまさに映し出したのが、この作品です。加藤シゲアキさんの作品は、現代にはびこる様々な事象を様々なジャンル、視点から描かれていて読み飽きません。今の時代を写実的に描ける作家です。