【大人のひきこもり】自閉症スペクトラムと不安障害の人への支援の話
これは行政の支援により長年引きこもっていたメンタルに障害を持つ女性が社会参加できるようになった話です。
登場する人物
Aさん:20代、女性、引きこもり当事者
Bさん:50代、男性、Aさんの父親
Cさん:50代、女性、Aさんの母親
私:30代、男性、相談窓口担当(社会福祉士)
Dさん:40代、女性、精神保健福祉士
Eさん:40代、男性、自立訓練事業所の管理者
Fさん:50代、女性、相談支援専門員
Gさん:20代、Aさんの小・中学校の同級生でEさんの部下
高校卒業後10年引きこもる女性
Aさん(20代女性)は幼少期から対人関係に鬱積しやすく集団から孤立しがちでした。
高校時代から不登校気味になり、何とか卒業はしたものの 進学も就職もせずそのまま引きこもってしまいました。
父親のBさんと母親のCさん(共に50代)は娘について「しばらくはゆっくりと進路を考えればよい」と思っていたのですが、やがてAさんは外出すらしなくなり、自室から出てくることも少なくなりました。
そろそろAさんの引きこもり状態が10年近くになってきたため

これはさすがにまずい…。
…と感じて相談窓口にやってきたということでした。
相談に対応した社会福祉士の私(30代男性)は Aさんが女性であることから 女性の精神保健福祉士のDさん(40代)に一緒に担当してもらうことになり、Dさんが家庭訪問をしてAさんと直接会うことができました。
しかし当初は Aさんに何を聞いても何も答えてくれない状態が続いていました。そんな中 Dさんが粘り強く訪問を繰り返していくうちにAさんはこんな要望を出してきました。

Dさんだけに話すのは嫌だ。他の人も、男の人でもいいから 複数の人に話を聴いてほしい。
そこで男性である私も一緒に訪問して話を聴くことができました。
自閉症スペクトラムと社交不安障害
Aさんは話し方がぎこちなく、Dさんにも私にも目を合わせることがほとんどなく、手をぶらぶらさせるなどの独特の行動も見られました。
Aさんは学生時代に特段にいじめられたとか、きつく怒られたなどといった体験があったわけではなく、

なんとなく 集団になじめない。
…ということをずっと感じてきたということでした。
現状についてはAさんなりに危機感は持っており、働くなど社会参加の希望はあるものの 外の世界に出ていくことに対する不安が強いということでした。
Dさんの見立てでは、

Aさんの状態は単なる性格等の問題ではないかもしれない。実際に社会的・精神的にしんどさを抱えていることから、精神医療を受けることが望ましいでしょう。
Aさんの両親もそれには賛成でしたが、Aさんは「病院に行く=外出する」ということ自体に不安がありました。
そこでDさんは Aさんが医師に会うまで なるべく誰にも会わないような状況を作るべく、

受付を済ませたら車で待期する。そのあと診察のタイミングで診察室に入って、終わったらすぐに車に戻る…という方法はどうですか?
…という提案をしたところ、Aさんは

お父さんかお母さんと一緒ならそれでもいい。
…と納得してもらえました。
精神科の初回の診察では Aさんに明確な診断は下りませんでしたが、付添者さえいれば病院に行けたことから Aさんの外出に対する不安のハードルが少しだけ下がったということでした。
以後、両親どちらかの付き添いで通院を重ね、心理検査も受けたところ 自閉症スペクトラム障害および社交不安障害との診断が下りました。
医師からは、

まずは不安感については薬物療法をします。できればどんな形でもいいので どこかに通って社会とのつながりを持つことが望ましいです。
と勧められたということでした。
自立訓練事業所から福祉的就労、社会参加へ
そのことを私の知人で自立訓練事業所を経営しているEさん(40代男性)に相談したところ、

医師の診断があれば利用ができるから、よかったら見学をしてみては?
…との提案を受けました。
そのことをAさんと両親・Dさんに伝えたところ、Aさんは

誰もいない状況なら 場所だけでも見学したい。

じゃあ 利用者が帰った後の時間を取るので、そのときに来てください。
Eさんの自立訓練事業所は 皆で交流したり作業したりするスペースもありますが、Aさんのように集団に対する不安が強い人のために個別で作業などができるブースも多く設けられていました。

実際、個別ブースじゃないと しんどい人が多いですよ。でもほとんどの人が、やがて個別ブースを出て交流するようになります。
…と言われたので、Aさんの両親は「是非とも通ってほしい」と言っていたそうです。
実際にAさんがこの自立訓練事業所を利用するまでには数ヶ月かかりましたが、初回のときにAさんの対応をした支援員は 偶然にもAさんの同級生のGさんでした。

Aさん!?小学校・中学校で一緒だったGだよ!覚えてる?

えぇ?私なんかのことを覚えてくれている人がいるんだ!
自分のことを覚えていてくれた人がいることがAさんにとってはとても嬉しく、このこともあって彼女は予想していたよりもスムーズに自立訓練事業所に通うことができるようになりました。
その後、Aさんは自立訓練事業所でパソコンをはじめ色んな訓練を受け、やがて個別ブースから出てきて 少しずつですが他の利用者とも遊んだりするようになりました。
またGさんの勧めもあって地域のボランティア活動で掃除などを行うなどの社会参加ができるようにもなったということです。
自立訓練事業所の利用期間が終了した後のAさんは、福祉的就労で働くことも予定されています。
社会不安障害とは?
社交不安障害は、社会恐怖とも呼ばれ、日本では、対人恐怖症、赤面恐怖症といわれていたものです。人前で恥をかいたり、恥ずかしい思いをすることを極度に恐れ、そのような社会的状況に強い不安や苦しみを感じ、避けてしまいます。
人前に出ると緊張する、わけもなく不安・恐怖するなどの症状から、その程度が大きくなると社会生活にも支障をきたすようになります。以前は「気の持ちよう」「性格の問題」とされることもありましたが、れっきとした障害です。現在では、10人に1-2人がかかるともいわれております。
「人前であがってしまったと」というようなことはだれでも経験するものです。またシャイな人もどこにでもいます。しかし、社交不安障害では、人前で恥をかいたり、恥ずかしい思いをすることを怖れるあまり、そのような社会的状況をすべて避けてしまい、外出や通勤・通学もできなくなるなど、日常生活や職業的あるいは社会的な機能が著しく障害されます。
すべての社会的状況を避けてしまう場合を「全般性の社交不安障害」、限定された2、3の社会的状況のみを回避する場合を「非全般型の社交不安障害」と、症状の程度で2つに分ける場合もあります。
小児期でもみられますが、10代半ばでの発症が多く、25歳以上での発症はまれといわれています。強いストレスを受けたり恥ずかしい思いをしたりした時に突然発症することもありますが、知らないうちに徐々に強くなっていく場合もあります。
引用元:ながうしクリニック
大人の自閉症スペクトラム(ASD)とは?
【related posts】自閉症スペクトラム(ASD)は、大きく分けて 知的障害を伴う自閉症 知的障害を伴わない自閉症(アスペルガー症候群)の2つがあります。特に知的障害を伴わない自閉症(アスペルガー症候群)の場合、知的発達の遅れがないため、子どものころは学業成績や生活態度などにも問題がみられず、診断や支援を受けないまま大人になることが多いといわれています。
しかし、大人になればなるほど、コミュニケーションが難しくなり、対人関係などの悩みが発生します。大人になってから対人関係などがうまくいかない状況が続くと「どうして周りの人と同じようにできないのだろう」「自分は当たり前のことができていない」といったような違和感があり、生きづらく感じ、自尊心の低下につながることがあるといわれています。そのような不安な気持ちを持ち続けると、二次障害が発症することもあります。
大人になってから初めてASDという診断がおりたことで「自分が悪いのではなく、ASDという特性があるから生きづらさを感じていたのか」「ほかにも同じような人もいる」と知り、安堵する方もおられるようです。
ASDは「空気が読むことが難しい」「こだわりが強い」などといったような苦手がありますが、一方で「ルーティンが得意」「真面目」などといったような得意もあります。誰にでも得意・苦手を持っています。そのため、自分の得意を活かせること・苦手をカバーできることを整理し、環境を整えていくことが大切です。1人で整理することが難しければ、ASDをサポートする支援機関など活用しながら見つけていくという方法もあります。
引用元:りたりこワークス
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