カフーを待ちわびて
「嫁に来ないか。幸せにします」「絵馬の言葉が本当なら、私をお嫁さんにしてください」から始まるスピリチュアルなほどピュアなラブストーリー。ゆるやかな時間が流れる、沖縄の小さな島。一枚の絵馬と一通の手紙から始まる、明青(あきお)と幸(さち)の出会い。偶然に見えた二人の出会いは、思いも寄らない運命的な愛の結末へ。第1回「日本ラブストーリー大賞」大賞受賞作品。
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30代女性 原田ハマさんのデビュー作です。冗談のつもりで書いた絵馬がとある奇跡を起こします。のほほんとしていて大きな事件が起こるわけではない序盤ですが、沖縄の自然の美しさや人々の暖かさが感じられて、ゆったりした気持ちになれます。
主人公と暮らす犬のカフー、名前の由来は沖縄の方言で「果報」の意味ですが、この子がとっても可愛いです。黒のラブラドールレトリバーと暮らしたくなりました。
主人公の男性と、主人公の元に突然現れる謎の女性、不思議な関係の共同生活は微笑ましいながらもなんだかぎこちない。女性は誰なのか、二人は結ばれるのか、ミステリー要素もあり、最後まで目が離せませず、いろいろな展開に私は泣きました。
タイトルの「カフーを待ちわびて」の意味も、わかると奥が深いなぁと 読み終わってしみじみと感じました。犬のカフーを待つのも果報を待つのも、主人公は両方を本当に待っていたし、女性の方もまた待っていたのです。
恋愛モノ、青春モノ、家族物語、ミステリー、どの分野に分類すればいいのかわからないほど色んな要素が含まれています。ありきたりな恋愛モノや青春モノに飽きた方にもオススメできます。あまり本を読んだことがない方でも、文章が綺麗でわかりやすいので読みやすいと思います。
読み進めていくうちに、女性の正体が少しずつわかっていくライトなミステリー要素も楽しめるはずです。文章だけで情景が浮かんでくるほど描写が丁寧で言葉も綺麗でしたし、実際に映画化されています。
暗幕のゲルニカ
暗幕の下にこそ、決して目を逸らすことのできない真実がある。ゲルニカを消したのは誰だ―? 衝撃の名画を巡る陰謀に、ピカソを愛する者たちが立ち向かう。
ニューヨーク、国連本部。イラク攻撃を宣言する米国務長官の背後から、「ゲルニカ」のタペストリーが消えた。MoMAのキュレータ ー八神瑤子はピカソの名画を巡る陰謀に巻き込まれていく。故国スペイン内戦下に創造した衝撃作に、世紀の画家は何を託したか。ピカソの恋人で写真家のドラ・マールが生きた過去と、瑤子が生きる現代との交錯の中で辿り着く一つの真実。怒濤のアートサスペンス!
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30代女性 『ゲルニカ』はあまりにも有名な絵画である。それが何故これほどまでに人々に知られているのか、理由は数多くあります。
稀代の天才アーティストであるピカソの作品だから。3.49 m x 7.77 mの非常に大きなキャンバスに描かれた作品だから。不思議な形をした人間や動物が薄気味悪いから。そして、過去に起きた悲惨な内戦を描いた作品だからでもあります。
この作品は『ゲルニカ』にまつわる人物が2つの軸で登場します。ゲルニカを生み出したピカソと愛人であるドラやその周辺の人々が生きた1970年代と、ニューヨーク同時多発テロで夫を亡くした八神瑶子が生きる2000年代。
故郷の内戦に失望し、怒り、反戦の象徴としてピカソが描き上げたゲルニカ。その複製のタペストリーがあるニューヨークの国連本部では、同時多発テロ以降タペストリーが何者かによって隠されました。その黒幕には、ピカソの故郷で暗躍するテロ集団がいます。
芸術が持つ力を信じ、平和を訴え続けたピカソ。そしてピカソの信念を信じ芸術を守り続けてきた瑶子。二人の生きた時代は全く違っても、平和に対する思いは同じです。
コロナ禍で様々なものが分断され、新たな争いが起こっている今だからこそ、平和についていま一度考えるきっかけをもらいました。
ハグとナガラ
どこでもいい。いつでもいい。一緒に行こう。旅に出よう。人生を、もっと足掻こう。恋も仕事も失い、絶望していたハグ。突然「一緒に旅に出よう」と大学時代の親友ナガラからメールが届いた。以来、ふたりは季節ごとに旅に出ることに。ともに秘湯に入り、名物を堪能し、花や月を愛でに日本全国駆け巡る、女ふたりの気ままな旅。気がつけば、四十路になり、五十代も始まり…。人生の成功者になれなくても、自分らしく人生の寄り道を楽しむのもいい。心に灯がともる六つの旅物語。文庫オリジナル短編集です。
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50代女性 コロナ禍で普通に旅をするのも難しくなった状況の今、物語の中で旅をした気分になれた素晴らしい本であり、お勧めしたい一冊です。
この本は、それこそハグとナガラのような関係である私の学生時代からの友人から譲ってもらった本でした。学生時代といっても、私たちの場合は小学4年生の時からの付き合いであり、放課後にはお人形をもってお互いの家を行き来して遊んでいたころからの友人です。そして、進学して学校が違ったときには文通でお互いの近況を交換したりしていたものでした。
どんなに離れても、今まで50年つながっていられた友人。どうしても捨てられず大事に保管していたその友人からの手紙を昨年彼女にに見せたところ「恥ずかしい~」と言いながらも45年ほど前の自分の手紙を懐かしいく読んでいた姿が印象的でした。
そんな友人からのおすすめがこの本との出会いですが、本書の中の彼女たちは、親の介護や仕事に悩みながらも旅に出て、また元気になれる。お互いを思いやり、励ましあう姿がとても印象的で、その関係性がとても羨ましいと思いました。
今、私たちはちょっとばかり遠くに住んでおり、なかなか会うことはできませんが、子育てもほぼ終わり、自由な時間ができつつある今「女同士の旅をしたいね」と話しているところです。夫婦とも同級生ということもあり、今後二組の夫婦での旅も検討中です。
読んでいく中で、原田マハさんが同じ年ということを知り、ますます親近感が持て、ほかの作品も読んでみたいと思っています。
異邦人(いりびと)
「美しさ」は、これほどまでに人を狂わすのか。たかむら画廊の青年専務・篁(たかむら)一輝と結婚した有吉美術館の副館長・菜穂は、出産を控えて東京を離れ、京都に長逗留していた。妊婦としての生活に鬱々(うつうつ)とする菜穂だったが、気分転換に出かけた老舗画廊で、一枚の絵に心を奪われる。強い磁力を放つその絵の作者は、まだ無名の若き女性画家だったのだが…。彼女の才能と「美」に翻弄される人々の隆盛と凋落を艶やかに描く、著者新境地の衝撃作。
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20代男性 舞台は古都・京都。1人の女性日本画家の圧倒的に秀でている才能と「美しさ」をめぐる人々の人生の盛り上がりや、落ち込み、さらには色鮮やかに輝いている瞬間から色褪せ、衰退していく時間経過を繊細に描いている作品です。盛者必衰とはまさにこのこと。
出産を控えた妊婦さんで、人によっては「人生の最高潮期」にも関わらず、なぜか鬱々とした日々を送っている。鬱々としていることで逆にリアルな生活を繊細に表現している中、たった1枚の絵画に心をわしづかみにされ、絵に引き込まれていく。読者の時間すら止めてしまうような表現力でこちらも引き込まれてしまいます。
やっと心のよりどころとなりうる「絵画」に出会い、精神を落ち着かせ出産に臨めると安堵するや否やあくまでもそこは「序」である。人間関係の変化や、出産を控え、生活環境も変わる。さらには季節感の変化までを読者に書いて伝えるのではなく想像させる気持ちよさ。
私が感銘を受けた部分は、冒頭の「京都に、夜、到着したのはこれが初めてだった。春の宵の匂いがした」という一節。人の心情の変化を自然に誇張しすぎず、しかし、隠れるほどの嘘はつかない表現や文章の何倍もの想像をさせる含ませた書き方。
アートの為ならすべてをかなぐり捨ててもいいという芸術至上主義的な人物像を明確にするための経営危機や人間関係、全てが主人公を輝かせるための布石としての役割を担っており、引き込まれるような書き方が素敵だと思います。
常設展示室
6枚の絵画と人生が交差する傑作短編集。いつか終わる恋をしていた私。不意の病で人生の選択を迫られた娘。忘れられないあの人の記憶を胸に秘めてきた彼女。運命に悩みながら美術館を訪れた人々の未来を、一枚の絵が切り開いてくれた。足を運べばいつでも会える常設展は、今日もあなたを待っている。ピカソ、フェルメール、ラファエロ、ゴッホ、マティス、東山魁夷…実在する6枚の絵画が物語を彩る、極上のアート短編小説集。女優・上白石萌音さんによる、文庫解説を収録。
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60代男性 原田マハさんの小説は長編が読み応えあって読破しているのですが、ここでは敢えて短編集を紹介します。ピカソ、フェルメール、ラファエロ、ゴッホ、マティス、東山魁夷を題材にした6編の短編集です。
原田マハさんの多くの小説は最後に泣かされる物語が多くて、通勤電車の中で読むと突然涙がこぼれて困ることが多いのですが、今回の落涙は自宅だったので助かりました。
小説を読んで涙腺を刺激されるのは嬉しかったり切なかったりした時なのですが、原田マハさんの小説は思いつかないような感動的な事が起こってボロボロと泣いてしまうことが多いです。本当に運命的とも必然とも言えるような出会いを思いつけるものだと感心してしまいます。
この短編集は、原田マハさんが最も得意とされるアートを題材にしています。キュレーターとして働いていたことのある方なのでアートに対する造詣の深さと、実際に接した経験の多さゆえにさまざまな場面を発想できるに違いありません。
これまでも、ピカソ、ゴッホを題材にした小説はありましたが、画家への想いを読んだ上で今回の短編を読んでもとても新鮮でした。しかし、個人的には6つの短編の中で一番ボロボロと泣いてしまったのは、最後の「道 L’a Strada」でした。
この小説だけは著名な画家を題材にしたものではなくて、名もなき画家の物語です。しかも、この画家が主人公として全面に描かれているわけではなく、この画家と切っても切れない関係にある人が主人公として物語が進んでいきます。
最後に2人の関係が分かった時の状況が切なすぎて泣けるのですが、状況は絶望的ではあっても少しだけ救われた気持ちも抱かせてくれます。すごい小説を書かれる小説家だと改めて感服致しました。
一分間だけ
ファッション雑誌編集者の藍は、ある日ゴールデンリトリーバーのリラを飼うことになった。恋人と一緒に育てはじめたものの、仕事が生き甲斐の藍は、日々の忙しさに翻弄され、何を愛し何に愛されているかを次第に見失っていく……。恋人が去り、残されたリラとの生活に苦痛を感じ始めた頃、リラが癌に侵されてしまう。愛犬との闘病生活のなかで「本当に大切なもの」に気づきはじめる藍。働く女性と愛犬のリアル・ラブストーリー。
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50代女性 編集部の仕事をするキャリアウーマンが、取材先で出会った訳ありの仔犬。今日売れなければ明日は保健所送りになるという事情をきいて、同棲するパートナーと相談し飼うことに。
毎日仕事に多忙な主人公が仔犬のために職場から離れた遠いところに引越しし、仔犬中心の生活をしながら日々を送っているのですが、どうしても思い通りにならない事柄も多々あり もどかしさを感じる主人公に共感しました。可愛い、癒される…だけでなく責任をもって飼うことの重要性をヒシヒシと感じます。
ゴールデンレトリバーが飼い主の帰りをじっと待ち、トイレを我慢しきれずに粗相をしてしまう。でも悪いとわかって縮こまっている。そんな描写を読んでいたたまれない気持ちになりました。主人公も疲れた忙しさから犬につらくあたる場面も、そしてそれを黙って見つめるパートナーも、それぞれの気持ちが痛いほどに伝わってきました。
最後は同棲相手とも別れて、犬と二人暮らしするのですが、愛犬の病気が分かり自分の仕事のキャリアを捨てて看取る決心をした主人公に「私もそうしただろう」と思います。もう犬、ペットではなくかけがえのない家族になっていたのです。
私も病気で愛犬を亡くしており、その時に仕事もあったので100%そばにいてあげられず 病院で死なせてしまった経験があります。その時のことと被って物語の最終章は泣きながら読みました。
ゴールデンレトリバーと主人公たちのからみが目に浮かぶようで、最初から最後まで犬好きな人には感動の物語でした。
生きるぼくら
いじめから、ひきこもりとなった二十四歳の麻生人生(あそうじんせい)。頼りだった母が突然いなくなった。残されていたのは、年賀状の束。その中に一枚だけ記憶にある名前があった。「もう一度会えますように。私の命が、あるうちに」マーサばあちゃんから? 人生は四年ぶりに外へ! 祖母のいる蓼科(たてしな)へ向かうと、予想を覆す状況が待っていた。人の温もりにふれ、米づくりから、大きく人生が変わっていく。
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40代女性 「生きるぼくら」は私にとっての初めての原田マハさんの作品です。
主人公は両親の離婚やいじめによって引きこもりになった24歳の青年。ある日それまで懸命に主人公の生活を支えてくれていた母親が家を出てしまいます。母が残していったのはわずかなお金と置手紙、それから母に届いた年賀状。
困った青年は残された年賀状の中から父方の実家である蓼科の祖母を訪ねてそこで暮らし始めます。蓼科の自然の中で祖母や祖母を支えてくれている人たちとの関わりの中で青年は変わり始めます。
今、「生きる」ことが難しいと感じている人たちが増えている様に思いますが、「生きる」意味を教えてくれる作品のように感じました。何にもできないと自分で勝手に思い込んでいた主人公が少しづつ変わっていく様は 読んでいてとても嬉しかったし 私自身に自信が持てるようになりました。
更科の祖母はお米作りをしているのですが 祖母が主人公にかける言葉が温かくて深くて たいへん愛情にあふれているのです。言葉の大切さ、自分の事を信じてくれている存在の大きさ、自分だけではなく他者(自然や環境も含めて)と共に生きるという事など改めて考えさせられました。
主人公の青年よりも随分と大人の私ですが、読み終わってから祖母や母から言われていた事など思い出しました。そして誰かが握ってくれたおにぎりが食べたくなりました。きっとみなさんも 読み終わった時におにぎり食べたくなると思います。
「生きる」…人それぞれ考え方は違いますが、本当はとてもシンプルなのかもしれません。前を向いて歩きだす勇気をもらえる作品でした。
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